無題法律の解釈とは、法律の適用範囲を明らかにするため、条文に使われる言葉の意味を明確にすることです。例えば刑法には、「人を殺した者は、死刑又は無期若しくは5年以上の懲役に処する」という条文があります。ここでいう「殺した」という言葉は、銃やナイフを使って死亡させる「作為」だけでなく、乳幼児や介護の必要なお年寄りを部屋に閉じ込めて長時間外出しているうちに死亡させたような「不作為」を含むというのが解釈の例です。

1日の閣議決定では、憲法9条1項の「武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」の解釈が示されました。まず、この文言からして、自衛権の行使であっても「武力の行使」は一切禁じられているように読めるとしつつ、日本国政府は憲法前文の「平和的生存権」や13条の「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利」を保障する義務を負っていることを踏まえ、「外国の武力攻撃によって国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆されるという急迫、不正の事態に対処し、国民のこれらの権利を守るためのやむを得ない措置として初めて容認され」、「そのための必要最小限度の「武力の行使」は許容される」という従来の政府見解を維持することを宣言します。

しかし、「我が国を取り巻く安全保障環境が根本的に変容し、変化し続けている状況を踏まえれば、今後他国に対して発生する武力攻撃であったとしても、その目的、規模、態様等によっては、我が国の存立を脅かすことも現実に起こり得る」とし、「我が国に対する武力攻撃が発生した場合のみならず、我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合において、これを排除し、我が国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないときに、必要最小限度の実力を行使することは」、「自衛のための措置として、憲法上許容される」とします。さらに、こうした措置は、「国際法上は集団的自衛権が根拠となる場合がある」としています。

この「解釈」に対しては、即座に次のような疑問が湧きます。

  1. 「我が国と密接な関係にある他国」とはどこか。
  2. 「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険」が生じるのはどのような場合か。
  3. 「憲法上許容される自衛の措置が国際法上は集団的自衛権を根拠とする」のはどのような場合か。

これらに対する明確な答えがなければ、憲法9条1項の例外が認められる範囲は明らかになりません。今回の閣議決定は、解釈が必要な「解釈」であり、解釈の意味がありません。