16日、岸田政権は、来年度から5年間の防衛予算をこれまでの6割増しの43兆円とする「防衛力整備計画」の閣議決定を行いました。また、同日に与党は、その財源などを定める来年度の「税制改正大綱」を決定しました。

しかしながら、なぜ5年間で43兆円も防衛費が必要となるのか、具体的な根拠は示されていません。先般の補正予算と同じく「額ありき」です。そして、43兆円のうち従来の防衛費を上回る約17兆円は、①国有財産の売却代金や特別会計からの戻し金、②毎年の予算の余り金、③無駄の削減、④所得税などの増税、でまかなうようですが、問題だらけです。

というのも、①は基本的に1回限りで「継続性」が乏しく、②は予算が余るかどうかは社会や経済の状況次第で「確実性」がなく、③はそもそも予算の無駄があること自体が誤りなので、これを削減すれば財源が生じるというのは「合理性」がありません。何より④については、復興のために使われると信じて国民が期間限定で協力してきた「復興特別所得税」を、期間の定めなく防衛費に流用することを含んでいます。「誠実性」のかけらもありません。

そもそも「復興特別所得税」は、東日本大震災の復興に必要な予算10年分の財源を調達するためのものです。民主党政権が当時野党だった自民党と公明党の賛同を得て導入しました。もともとは、各納税者が実際に支払っている所得税の金額に4%を掛けた金額を毎年上乗せし、復興予算と同じ10年間のみの増税とする案でした。

しかし、自民・公明の両党から1年当たりの負担が重いとの批判が出たため、掛け目を2.1%に引き下げ、増税期間を25年間に修正したという経緯があります。このため、本来の案なら今年度で終わるはずでしたが、あと15年間は「復興特別所得税」が続くことになっています。今回の所得税の増税案はこれに目を付け、「悪用」しようとしているのです。

すなわち、「復興特別所得税」の掛け目を2.1%から1.1%に引き下げる代わりに、浮いた1%分は「新たな付加税」として防衛費に充てます。「新たな付加税」を国民に課すのは「当分の間」としますが、復興予算と違って防衛予算に終わりはなく、いつまで続くのか分かりません。しかも、1.1%への引き下げによって減る税収を補うために、あと15年で終わるはずだった「復興特別所得税」が10年以上先延ばしされそうです。

全体で見れば、1年当たりの所得税の金額は従来と同じですが、課税される期間が長くなるので負担は増えます。こんな「だまし討ち」のようなやり方ではなく、まずは43兆円もの防衛予算がなぜ必要なのかにつき、岸田首相は国民に具体的な説明をする必要があります。