22日、政府の「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」の報告書がまとまりました。「総合的に考える」と銘打っていますが、防衛力の前提となる安全保障環境を良くするために日本の外交はどうあるべきか、憲法9条による「専守防衛」という絶対条件がある中で防衛力の強化はどこまで許されるのか、といった根本的な議論は行われていません。

「新しく、厳しい安全保障環境を考えるとき、何をなすべきかという発想で、5年以内に防衛力を抜本的に強化しなければならない」とした上で、「我が国の反撃能力の保有と増強が抑止力の維持・向上のために不可欠である」、「防衛力の抜本的強化のための財源は、今を生きる世代全体で分かち合っていくべき」と、たった4回の会議で結論を出しています。

反撃能力の保有と防衛力強化の財源は、国民の生命と財産を守るという防衛の目的にとってふさわしいものなのかどうか、もっと慎重に検討すべきです。

まず、反撃能力は「敵基地攻撃能力」とも言われます。我が国から遠く離れた目的地を狙えるミサイルを持ち、相手国から攻撃されそうになったり、実際に攻撃を受けたりした場合には、これを相手国の領域に撃ち込むことができる能力を意味します。このうち、相手国にあるミサイル基地など攻撃の拠点をたたくことは、これまでも憲法上可能とされてきました。しかし、相手国の軍司令部や政府、産業拠点をたたくことは「自衛のための必要最小限度」を超えるため、憲法上許されないと考えられます。

以上を踏まえ、憲法上許される範囲で反撃能力を持ったとして、相手国が日本への攻撃を思い留まる抑止力となるのでしょうか。「ならない」なら、反撃能力を持つ意味がありません。逆に「なる」とすれば、相手国は当然日本の反撃能力を上回る攻撃能力を持とうとするため、限りのない軍拡競争となってしまいます。他国の領域への反撃能力を論じる前に、領土や領海など我が国の領域警備を万全にすべきです。

次に、財源については、与党等からは、防衛費を現在の2倍以上にすべきだという勇ましい意見も出ていますが、それには5兆円程度の財源が必要となります。毎年発生する防衛費のために国の借金を増やし続けることは到底できません。とは言え、長引くコロナ禍、物価高で国民の生活は厳しさを増しています。一般の国民にこれを受け入れる余裕はありません。

まずは、真に必要な防衛費がいくらなのか精査すべきです。そして、足らざる部分があれば今回の補正予算のような無駄遣いをやめて財源を作り、なお足りなければ、防衛産業をはじめ恩恵を受ける大企業の利益への課税を強化することで財源を手当てすべきです。