30日、裁判官を辞めさせるかどうかを決める弾劾裁判の第二回公判が開かれ、結論を大きく左右する証拠調べが始まりました。弾劾裁判が行われるのは通常の裁判所ではなく、予算委員会が行われている国会議事堂のすぐ近くにある専用の法廷です。私は、衆参14人の国会議員から成る裁判員の一人です。法律家出身ということで、裁判長を務める松山政司参議院議員の隣に座って裁判の進行を補佐しています。

弾劾裁判では、検察役を担う訴追委員も国会議員が務めます。自民党の衆参5人の議員が、訴追委員として公判に参加しています。一方、訴追された岡口基一裁判官の弁護人には刑事弁護の専門家がずらりと並び、裁判長の指揮や訴追委員の主張・立証に問題があると見ると、すかさず異議を申し立てます。この日の審理時間は3時間以上に及びましたが、ある意味では、テレビ中継される予算委員会を上回る緊張感がありました。

この事件では、岡口裁判官の担当外の事件に関するSNSの投稿や記者会見等での発言が、刑事事件の被害者遺族の感情を傷つけ、民事事件の当事者の社会的評価を不当におとしめるものとして、「裁判官としての威信を著しく失うべき非行」にあたるかが争いとなっています。そして、訴追側が岡口裁判官の様々な投稿や発言を全体で評価すべきだと主張しているのに対し、弁護側はそれぞれ独立のものとして評価すべきであり、時期が古いものは訴追対象から外れると主張しています。

一方、予算委員会では、大臣の不祥事が相次いで発覚しています。特に現在問題となっている秋葉賢也復興大臣については、①多額の資金が流れた義兄の政治団体に実態がなかった、②公設秘書を車上運動員と偽って報酬を支払った、③旧統一教会の関連団体と密接な関係があった、④自分の名前が入ったタスキを次男にかけさせて選挙運動をした、といった多数の疑惑があります。しかし、秋葉大臣から明快な説明はなく、疑惑は晴れません。

これだけの問題を全体で見るなら、解任が当然です。しかしながら、任命権を持つ岸田首相は、秋葉大臣に新たな問題が発覚して予算委員会で追及されても、「説明責任を果たして欲しい」と繰り返すだけで、全体を見ようとしません。今回の訴追委員の主張の当否は別として、同じ党の岸田首相は、その厳しい姿勢を多少なりとも見習うべきではないでしょうか。

また、訴追側が提出した膨大な証拠書類の取り調べ方法についても、弁護側から異議が出ました。予算委員会であれば、審議中に野党側から異議が出ても、委員長の権限で審議を続行するのが普通です。今回の弾劾裁判では、裁判長がいったん審理を止め、裁判員全員で慎重に協議した上で、審理を再開しました。これも予算委員会が見習うべきことです。