29日、自民党の総裁選挙で岸田文雄氏が新たな総裁に選ばれました。私と同じ日本長期信用銀行での勤務経験がある方です。共通の知人も多く、議員会館などで会った際には気軽にお話をしています。一個人として、新総裁就任に祝意を表したいと思います。

岸田氏は麻生副総理兼財務大臣や二階幹事長を交代させるなど、自民党政権の表紙ぐらいは変わった印象があります。ただし、新たに幹事長に決まった甘利氏は、麻生氏や安倍元首相と密接な関係があり、この二人の意向が政権を左右しそうです。加えて、甘利氏は5年前、「あっせん利得罪」の疑いで大臣を辞任し、その後は公の場できちんと説明していません。甘利氏が政権与党の要職に就くのであれば、まずは説明責任を果たすべきです。「表紙は変わったが、本文はすべて黒塗り」ということでは話になりません。

政権の表紙だけでなく中身を整えるために、もう一つ重要なことがあります。政府の中で実際に予算や法案を作り、政策を実行する官僚組織をいかに機能させるかということです。公文書の隠蔽・改ざん・廃棄、賃金統計の粉飾、業者との高額接待、そしてこれらに関する国会での不誠実な答弁など、安倍政権と菅政権の9年近くの間に官僚の不祥事が相次ぎました。しかも関係者の中で最も責任を負うべき人間が栄転し、現場で実務を担っていた人たちが苦汁を味わっています。近畿財務局で自ら死を選んだ赤木俊夫さんはその典型です。

こうした理不尽で人権軽視の官僚組織に若者も嫌気がさしたのか、今年のキャリア官僚の志願者は前年より15%近くも減少、平成8年のピーク時の3分の1程度です。若手キャリア官僚の中途退職数もここ6年で4倍以上になっています。このままではどの政権であれ、仕事が進まなくなってしまいます。現に、先の通常国会では政府が提出する法案に誤字・脱字が多数見つかり、法案の審議が滞ってしまいました。

このような問題意識で、「若者の官僚離れ」をどうやって食い止めるかを菅首相に国会で提案したことがあります。それは、首相から官僚の皆さんに「憲法15条2項を守った人はちゃんと評価します」と宣言することです。憲法15条2項には「すべて公務員は、全体の奉仕者であって、一部の奉仕者ではない」と書かれています。特定の政治家や、上司、業界などに奉仕するのではなく、国民全体に奉仕する官僚をきちんと評価することによって、「若者の官僚離れ」は止まり、政権の中身も変わってくると考えました。

私の提案に対し、菅首相は「私自身もそうした基本姿勢の下に対応していきたい」と答弁していましたが、その成果が見えないまま退陣となりました。表紙だけでなく中身を変える意思があるのか、岸田政権の姿勢を問いただす必要があります。