6日、農水省は、大阪の堂島商品取引所による米の先物取引の上場申請について、認可を見送りました。米に限らず商品の先物価格は、将来の需要と供給の見通しによって決まります。将来の需要が供給を下回ると見込まれれば、供給過剰感から先物価格が下がり、それに引きずられて現物価格も下がります。農水省は、こうした値動きが生産者に不安を与えることなどに配慮し、認可しなかったようです。

農水省の懸念も理解できますが、一方で、農水省自体が、先物取引への参加者に対して将来の米価下落を見込む材料を提供しているように思います。先月29日に農水省が発表した「米穀の需給及び価格の安定に関する基本方針」では、今年6月末の米の民間在庫量は219万トン、今年の米の予想生産量は693万トンで、これを合計した予想供給量は912万トンとなっています。一方、今年後半から来年前半にかけての米の予想需要量は703万トンです。結果、1年後の来年6月末の民間在庫量は、912万トンから703万トンを差し引いた約210万トンと予想されています。

過去のデータを見ると民間在庫量が200万トンを上回ってくると供給過剰感から米の価格が下がります。現時点で219万トンという「危険水域」に達していますが、このうち33万トンについて、農水省は農協に保管費用などを支援し、長期の在庫に回してもらって米価の下落を何とか防いできました。しかし、この33万トンも秋以降は売り出されることに加え、現在の生育状況からすると生産量も693万トンを上回りそうです。加えて、長引くコロナ禍で外食産業などが落ち込み、需要量は予想の703万トンを下回ってしまう可能性があります。現に前年度の需要量は、今年2月時点の予想より10万トンほど減少しました。これらを考えると、来年6月末の民間在庫量は210万トンという予想を大きく上回ってしまう可能性もあります。

農水省の担当者に「このままでは秋以降、米価が下がってしまうのではないか」と尋ねると「産地ごとに来年の生産量を考えてもらうしかない」と、さじを投げたような答えでした。3年前から国の減反目標はなくなりましたが、生産者は、国が示す「需給見通し」をもとに過剰生産で米価が下がらないよう、飼料用米などへの転換や需要の拡大に努めてきました。それでもなお供給過剰となる場合、農協が損失リスクを背負って在庫を増やしてきました。

米価下落時でも農家が安定した収入を得られる「戸別所得補償制度」を民主党政権で導入しましたが、現政権に変わって廃止されました。「自助」と「共助」に委ね放しでは、主食である米の生産が危機に瀕してしまいます。コロナ禍の緊急事態であることも考慮し毎年20万トン程度を買入れの上限にしてきた政府備蓄米の仕組みを見直すべきです。