3日、臨時国会が始まり、開会式の後に岸田首相が所信表明演説を行いました。内外に問題が山積する中、首相が「最優先課題」として挙げたのが「日本経済の再生」でした。

「新しい資本主義の旗印の下で、物価高・円安への対応、構造的な賃上げ、成長のための投資と改革の三つを、重点分野として取り組んでいく」と述べましたが、首相肝いりの「新しい資本主義」について触れたのはこれだけです。経済再生の「旗印」というものの、「新しい資本主義」の意味はこの1年でかなり変わりました。いったい何色の旗なのでしょうか。

振り返れば、衆議院解散直前の昨年10月に行った、岸田首相初の所信表明演説では「今こそ我が国も新しい資本主義を起動し、実現していこうではありませんか」と力強く訴えていました。そして「新しい資本主義を実現していく車の両輪、これは成長戦略と分配戦略です」と断言していました。総選挙に勝利した後の12月の所信表明演説では「新しい資本主義の主役は地方です」とも述べていました。

ところが先月、岸田首相がニューヨーク証券取引所で行ったスピーチでは、今年も米国で大活躍した大谷翔平選手を引き合いに出しつつ、「新しい資本主義の特徴は、バッターとピッチャーの二刀流ではなく、成長と持続可能性の二刀流です」と得意顔で語ったのです。

いつの間にか「分配」は軽視され、主役のはずの「地方」は消えてしまいました。これでは「アベノミクス」で広がった、大企業と中小企業、富裕層と一般層、都市と地方の格差が改まることを期待できません。

「新しい資本主義」と共に、岸田政権が力を入れてきた「デジタル田園都市国家構想」も失速しています。今回の所信表明演説では、「デジタル田園都市国家構想の実現に向けた取組を競い合う、夏のDiGi田甲子園を開催しました」と述べただけで、失笑が起こりました。

岸田政権の無策ぶりが露呈した「デジタル田園都市国家構想」とは、デジタル化の恩恵を全国に行き渡らせ、東京圏への一極集中の是正や多極化を図ろうとするものです。ただし、これを推進する部署は従来の「まち・ひと・しごと創生本部」です。名前は変わりましたが、安倍政権の下で8年前から始まった「地方創生」の取り組みをほぼ踏襲しています。

ちなみに、「新しい資本主義」は山際大志郎大臣、「デジタル田園都市国家構想」は岡田直樹大臣が担当。二人とも旧統一教会と関係があり、山際大臣は弁解に追われています。岸田政権の看板政策は1年経っても前進がなく、担当大臣と共に瀬戸際に追い込まれています。