道理に合わないことを無理に押し通すことを、「横車を押す」と言います。7日、ホワイトハウスで「日米貿易協定」の署名式が行われましたが、ここに至るトランプ大統領のやり方は、まさに「横車を押す」ものでした。

まず、米国が主導して日本を含め12か国で結んだTPPから勝手に離脱しておきながら、本協定では日本への主要な農林水産品の輸出について、TPPと同じ内容の関税引下げを認めさせたほか、牛肉について日本が低関税で輸入する基準量を新たに設けさせました。

この基準量につきTPPの交渉では米国の要望も入れて高めに決めていました。米国がTPPから離脱した以上、基準量を引き下げるのが先決です。それをしないまま新たに米国向けの低関税基準量を設けることは、日本の畜産業にとって大きな打撃です。なお、TPPで認められていた、7万トンのコメを米国が関税なしで輸出する枠は今回盛り込まれていませんが、将来の再協議を予定する規定もあり、油断はできません。

一方、日本から米国への輸出の柱である自動車とその部品については、TPPの際には明確な期限を設けて撤廃する約束でしたが、今回の協定では「更なる交渉による関税撤廃」とされました。農林水産品で米国が得たものと比較すれば、日本の「負け」は明らかです。

にもかかわらず、安倍首相は「日本と米国にとってウィンウィン(共に勝ち)の解決策」とし、その理由として「日本の自動車、自動車部品に対して、追加関税は課されないことを直接トランプ大統領から確認した」ことを挙げています。

しかし、そもそもトランプ大統領が、米国の安全保障に支障があるとの理由で日本の自動車等に追加関税を課そうとすること自体、道理に合いません。こうした屁理屈を持ち出し、TPPの時に認めていた自動車等の関税撤廃をうやむやにするトランプ大統領のやり方は、「横車を押す」やり方ですが、安倍首相は簡単に押し切られてしまいました。

今回の協定の後にも「横車」が控えている可能性があります。協定発効後4か月以内に、次の交渉の議題を決め、「関税や他の貿易上の制約、サービス貿易や投資にかかる障壁、その他の課題」について交渉することになっているからです。

トランプ大統領に毅然とした態度を示せない安倍首相では、今後さらに不利な交渉を強いられかねません。日米貿易協定は国家間の条約であり、国会の承認を得て初めて効力を持ちます。政府与党に厳しく対峙していきます。