26日、米国のトランプ大統領が夫人や安倍首相夫妻と共に、大相撲夏場所の千秋楽を観戦しました。会場である両国国技館には天皇陛下や海外の要人の観戦の際に使う立派な貴賓席があります。しかし、あえてその場所は使わず、土俵に近いマス席に陣取り、四人だけ特別注文のイスに座っての観戦でした。本来は座布団に座って観戦するマス席をわざわざこの日のために改造したとのこと。

取組み終了後に行われた表彰式では、これも特別注文の階段を使ってトランプ大統領が土俵に上がり、自ら優勝力士に大統領杯を授与しました。過去には相撲を愛好したシラク大統領がフランス大統領杯を授与したこともありますが、土俵に上がったことはありません。

まさに異例づくめの「おもてなし」であり、そのためにかつてない警備体制が取られ、ファンの方々も影響を受けました。一方、安倍首相は常にトランプ大統領の傍にいて満面の笑みでした。伝統と格式を重んじてきた大相撲の千秋楽が「トランプ・安倍劇場」に変えられてしまったことに違和感を禁じえません。

加えて、これだけの「おもてなし」をして日本が何を得られるのか定かではありません。トランプ大統領には、相撲の世界では許されない「禁じ手」という概念がないからです。

貿易の面では、5月に入って米国が中国から輸入する品目の関税割合を引き上げるとともに、対象品目をさらに拡大する構えを見せました。日本に対しても、自動車への関税を引き上げようとしています。これらは世界貿易機関(WTO)が築いてきた国際的な貿易ルールに抵触する「禁じ手」です。

安全保障の面でも、イランが核開発を大幅に制限する見返りに経済制裁を緩和する「核合意」を一方的に破棄する「禁じ手」により、米国とイランとの間で武力衝突が生じる危険が高まっています。もしそうなった場合、日本の原油の輸入も大幅に減り、私たちの暮らしや経済に大打撃が生じるでしょう。

今回の「おもてなし」の最大のメリットとして、トランプ大統領が夏の参院選が終わるまでは貿易交渉で日本に厳しい要求をしなくなる、という見方があります。しかし、これは裏を返せば、安倍首相が選挙に勝つために大相撲での「おもてなし」を政治利用したということであり、選挙後はトランプ大統領が「禁じ手」を繰り出しかねないということです。国民へのメリットも節度も矜持もない「おもてなし」は許されません。