17日、野党6党派は、丸山穂高代議士に対する議員辞職勧告決議案を衆議院に共同提出しました。丸山氏は国会議員の代表として北方領土へのビザなし交流訪問団に参加した際、元島民の団長に対して「戦争でこの島(国後島)を取り返すのは賛成ですか、反対ですか」と問い質し、団長が「戦争なんて言葉は使いたくない」と言っているにもかかわらず、「でも(戦争しないと)取り返せないですよね」「戦争しないとどうしようもなくないですか」などと「戦争」による北方領土奪還にこだわり続けました。

公開されている音声を聴くと単なる冗談や失言ではありません。丸山氏自身も「言論の自由」を理由に辞職勧告決議案に反対しているので、どうやら本気の発言だったようです。憲法は「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」(9条1項)と定め、国会議員は憲法を尊重、擁護する義務を負っています(99条)。

国会議員が憲法に違反する発言をすることは許されないことであり、「言論の自由」を享受する資格はありません。また、ロシアとの外交関係にも悪影響を及ぼす危険があります。しかしながら、与党側は現段階では辞職勧告決議案を採決すること自体に反対しています。過去に採決された例の大部分が犯罪に関わるものだったため、発言を理由に採決するのは「悪しき前例」になるという言い分のようです。

私は、議会の代表として派遣された国会議員が、憲法の大原則である「平和主義」を踏みにじる発言をしたのに、これを議会が放置することの方が「悪しき前例」になると思います。ただし、議会の多数派が、これに対立する少数議員を駆逐するために議員辞職勧告決議案を乱発する事態は避けなくてはなりません。

また、そもそもこの決議案に法的効力はありません。憲法に定めがあるのは院内の秩序を乱した議員に対する懲罰権です(憲法58条2項)。懲罰権に基づいて議員を除名するには三分の二の多数が必要ですが、そこに至る前に懲罰委員会で審議しなくてはなりません。その審議の中で、事実関係と事案の悪質性が明らかになり、除名という結論に至った場合でも将来同様の事案が起きた場合に公正な判断ができるようになります。裁判と同じで、公開の場で丁寧な審議を行うほうがよりよい結論が得られるでしょう。

「平和主義」と「言論の自由」は、国会見学に訪れる修学旅行生にご挨拶する際、私がよく話す大切な憲法上の価値です。国会が、両者を共に大切にする姿勢を示すよい機会だと思います。