IMAG034026日、政府は「一億総活躍社会の実現に向けて緊急に実施すべき対策」を発表しました。緊急対策は「介護離職ゼロ」「希望出生率1.8」を目標に掲げています。これらは安倍首相が「新三本の矢」に挙げていたものですが、いつの間にか「的」になっています。それはさておくとしても、今回の対策では介護施設や保育所を増やすとしながら、介護職員や保育士の待遇改善が盛り込まれていません。これでは必要な人材が確保できず、無駄なハコモノで借金を増やすだけです。「的」に命中する「矢」になっていません。

同じ日に、私は九州北部を訪ね、財政負担を抑えながら高齢者や子育て家庭を支援する取組みを学んできました。福岡県のみやま市では、来年4月に電力小売りが全面自由化されるのに合わせ、市が55%出資する地域新電力会社「みやまスマートエネルギー」を設立しました。一般家庭がこの会社から電力を買う契約を結んだ場合には、HEMSという電気の使用量を「見える化」するエネルギー管理システムを設置します。

これにより、サービスセンターが電気の使用量の変化などから高齢者の行動が普段と違うと察知した場合、親族に連絡する「高齢者見守り・健康チェックサービス」を提供できます。契約した家庭は、専用のタブレットを使って買い物の注文や行政サービスの依頼ができます。電力とITを統合するシステムで一人暮らしの高齢者でも安心して暮らせるようにする同市の取組みは、「2015年度グッドデザイン金賞」に選ばれています。

IMAG0342平成24年9月に「子育て支援のまち宣言」を行った佐賀県のみやき町にも伺いました。子どもの数に応じて最大50万円まで支給される「出産祝い金制度」を設け、出産前後に実家に帰れない母親のための「産前・産後ケアハウス」を作るなどしています。特に注目されているのが、町の財政負担を実質なくし、「PFI」という民間の資金やノウハウを活かす方式で建設した、「子育て支援地域優良賃貸住宅」。町外からも入居希望者が多く、どんどん戸数を増やしています。

実際に現地に行ってみると、買い物などに便利で建物や室内の仕様も立派です。にもかかわらず家賃は3LDKで5万円ほどに抑えられていて、人気の秘密がよく分かりました。末安伸之町長によると、こうした子育て支援の取組みにより、町の人口移動は従来の「出超」からこの2年は「入超」に転じたとのことでした。

みやま市、みやき町の「や(矢)」は、介護離職を減らし、希望出生率を高めるという「的」に命中しつつあると感じました。真に効果的な対策は、中央政府より地方自治体、霞が関の官僚機構より民間の団体や企業から生まれています。