映画やドラマで、容疑者の取調べのシーンがよく出てきます。取調べはすべて刑事が行うわけではありません。刑事は警察の中で犯罪捜査を専門に行う人で、交番などに勤務する制服を着た警察官も取調べを行うことがあります。警察以外にも海上保安庁など捜査権限を与えられた組織では取調べを行います。

そして、刑事裁判に向けて引き続き捜査を進める必要があれば、事件は検察に送られ、今度は検事が取調べを行って警察等の取調べに落ち度がなかったかどうかもチェックした上で、最終的に起訴するかどうかを判断します。

このように警察等の段階と検察の段階の二段階で取調べを行うのが通常の事件ですが、検察の取調べしかない事件(検察官認知・直受事件)もあります。その大半が、いわゆる特捜案件です。

特捜検事は検察の中でも花形としてもてはやされてきましたが、大阪地検特捜部の村木元局長事件や東京地検特捜部の担当した長銀事件のように、行き過ぎた取調べで冤罪や自殺者を生んでいます。

その背景には、検察だけが取調べを行い他の組織によるチェックが働かないことや、特捜案件はマスコミに大きく取り上げられるために起訴できなければ組織のメンツが保てないことが挙げられます。

このような特捜部による行き過ぎた取調べを防ぐ最善の方法が、取調べの一部始終を録画、録音しておいて刑事裁判の際にチェックできる体制を整えておく、すなわち「取調べの可視化」です。

もちろん警察等の段階での可視化も必要ですが、村木事件以来の検察をめぐる様々な問題で失われてきた検察への信頼を取り戻すため、まずは一刻も早い検察官認知・直受事件の可視化を、私たち民主党の法務部門は目指しています。

そのための法案の内容をめぐり、現在、私を含む法務部門の役員と法務省との間で交渉を続けていますが、法務省側は取調べの一部始終を可視化するのではなく、部分的な可視化に留めようとしており、交渉がまとまりません。

法務省側は刑事裁判の場で捜査の秘密が全部暴露され、法廷がウィキリークスのような状況になることを恐れているようです。しかし、実際の刑事裁判では取調べの一部始終がビデオ放映されるわけでなく、裁判所が争点の判断に必要と認める範囲で公開するだけであり、まったく問題ありません。

むしろ部分的な可視化に留めた場合、劉暁波氏のノーベル平和賞受賞のニュースの時だけ放映を中断する中国当局のように、検察側に都合の悪い部分は抜き取られてしまう可能性があります。

折しも10日には、検察が死刑を求刑した事件の裁判員裁判で、検察側の証拠隠蔽が疑われることなどを理由とする無罪判決が言い渡されました。検察不信が一層高まる中で、法務省が中国当局のような姿勢を取り続けることは自殺行為にほかなりません。