平成3年に私は社会人となり、岸田首相も在籍していた日本長期信用銀行に就職しました。銀行での最初の配属先は池袋支店で、新規融資先を開拓する担当でした。まだバブル経済が崩壊する前で、銀行の貸し出し競争が激しく、日々池袋の周辺や埼玉南部の中小企業を飛び込みで訪問し、経営者と直接お会いして新規融資のお願いをしていました。

新人の私に対し、時間をかけて会社の現状や課題を話してくれる経営者の方も多く、大変勉強になりました。そうして信頼関係を深めた上で、いざ融資契約を結ぼうという段階になると浮上するのが「経営者保証」の問題です。当時は、私の銀行に限らず、金融機関が中小企業に融資する場合は、経営者に債務の保証を求めるのが当たり前の時代でした。

ただ、経営者の側からすると、会社が信用されていないという不満や、もし経営に失敗したら路頭に迷うのではないかという不安から、保証を渋り取引を見送る企業もありました。その後、バブル経済が崩壊して「失われた30年」と言われる時代となり、「経営者保証」をしてまで借金をし、新たな事業に挑戦しようという企業は少なくなってきました。

この状況を改善するため、岸田政権は現在「経営者保証改革プログラム」と称して、官民共同で経営者保証に依存しない融資の慣行を確立しようとしています。その手段の一つが、金融機関が「信用保証協会」の保証(信用保証)を受けて中小企業に融資をする場合に、「信用保証協会」は融資を受ける企業の経営者保証を求めないようにすることです。

これまで、「信用保証協会」は、経営者保証がないと、万一貸し倒れが発生した場合に公的資金による損失ほてんを受けられない仕組みになっていました。今回、法律を改正して経営者保証がなくても「信用保証協会」が損失ほてんを受けられるようにし、中小企業が信用保証を得て融資を受けやすくしようとしています。

しかし、経営者保証がなくなると、不真面目な経営者は従業員の待遇や取引先を犠牲にして会社の資金で私腹を肥やすこともあり得ます。その結果、融資が貸し倒れになれば「信用保証協会」の損失を国民の税金で穴埋めしなければなりません。

24日の経済産業委員会で、西村経済産業大臣に対し、経営者保証を外す条件に「従業員の給与水準の引上げや経営者が会社財産を流用しないことも加えるべきだ」と提案すると、「問題意識は共有する部分もある」として「具体的に検討を進めていきたい」と答弁。損失補てんを当てにして、経営者保証を安易に外すようになると、借りる側も貸す側も責任感が薄れてしまい、従業員などにツケが回るおそれが生じます。金融機関出身者として「三方よし」の制度を目指します。