11日の財務金融委員会において、日本銀行の福井総裁に質問しました。

最初に、総裁から最近の景気の状況と日銀の金融政策等について説明がありました。 景気の状況については、11月2日の同委員会での総裁の説明と異なり、「減速」や「不確実性が高まっている」といった後ろ向きの表現が使われていました。しかし、金融政策については、前回とほぼ同じ説明であったため、日銀は景気動向に即して迅速かつ適切な対応を採るべきではないかという指摘をしました。

また、昨年暮れに発表された日銀短観(日銀が3か月ごとに全国各地の企業を対象に行う、企業の景況感に関する調査)の結果では、全国の業況判断指数は+2ですが、岩手では、▲17、福田首相のお膝元である群馬では+16など地域ごとに大きなばらつきがあります。日銀短観から見る地域格差

しかしながら、地域ごとのデータは地元では公表されますが、全国向けの日銀の公式資料では公表されません。このような中央集権的な情報開示のあり方も、地方へのバラマキ批判につながっていると考え、地域ごとの業況判断指数の公表を求めました。

福井総裁は、木を見て森を見ずという誤りを避けようという姿勢でしたが、森(日本経済)を支えている一本一本の木(地方経済)を直視して、こまめに手入れしなければ、森は次第に枯れていくのではないでしょうか。

【参考】
ロイター (2008/1/11) 「上下両方向のリスクバランスにどう対応するかという局面に入りつつある=福井日銀総裁」

サンケイニュ-ス(2008/1/11) 「日銀、株売却額1400億円、昨年10-12月


【議事録】
168-衆-財務金融委員会-9号 平成20年01月11日

階委員 旧日本長期信用銀行、十年前に破綻した、そこの出身の階でございます。
きょうは福井総裁と、私は元バンカーですけれども、バンカー同士ということで、忌憚のない意見交換をさせていただければ、こう思っております。
さて、質問に入る前にちょっと一点要望なんでございますが、きょう、福井総裁、この通貨及び金融の調節に関する報告書というペーパーをもとに御説明されました。私は、質問に入る前にこのぺーパーを拝見して準備させていただきたい、そのように申しておったんですが、このぺーパー自体は昨日の夕方できていたにもかかわらず、当日この時間でないと見せていただけないということで、過去の、昨年までの出ていた資料をもとに質問を準備したわけでございます。
しかしながら、御案内のとおり、その後のマーケットもいろいろ動いているわけでございまして、やはりこういう場でしっかりとした議論をするためには、あらかじめこういった資料は出していただいて、そして我々もちゃんと勉強した上で質問に臨む、これが本来あるべき姿ではないかと思います。その点、改善していただきたいと思いますが、御見解はいかがでしょうか。

○福井参考人 そういう努力はふだんからさせていただいておりますけれども、同時に、経済金融情勢というのは日々激しく変転しております。一番最新時点での情報を含んで御報告申し上げて議論をさせていただくという点も重要でございまして、両方の要請を十分かみ合わせて努力をさせていただきたいというふうに思います。

階委員 それは、日々変転するのはわかった上で、だからこそ直近の資料をもとに準備させていただきたいということでございます。
それはそれとして、今出てきた資料、今出てきたので、これは当然質問の事前通告はしておりませんが、ちょっと二点ほど聞かせていただきます。
まず、日本経済の動向について、昨年十一月二日に行われましたこの場での総裁の説明とかなり変動が見られます。例えば、冒頭のところで「わが国の景気は、住宅投資の落ち込みなどから減速している」といったような表現であるとか、あるいは、二ページ目に行きまして上から四行目あたり、「その後緩やかな拡大を続けるとみられます。」とありますが、前回はここに「息の長い」という表現がありました。また、その五、六行後ですけれども、「世界経済についての不確実性が高まっています。」とありますが、この「高まって」という表現も前回はありませんでした。
そういった中で、その後の金融政策運営のパラグラフですけれども、ここは前回と基本的に変わっていないわけでございます。そういったことで、状況は変わっているにもかかわらず、金融政策運営の文言がほとんど変わっていない、このことについて、どういう経緯なのか御説明願えますでしょうか。

○福井参考人 状況の変化は率直に御報告を申し上げるというのが私どもの基本的な立場でございます。
したがいまして、昨年秋の時点に比べますと、委員も御認識のとおり、日本の国内におきます、特に建設投資、住宅投資は急速な落ち込みを示している。これは事前の予想よりも急速に落ち込んでいるということでありますので、一つ率直に書かせていただいております。
それから、世界経済全体としてのリスク、アメリカ経済を中心に、そしてグローバルなマーケットを中心にしたダウンサイドリスクの高まりというのは、八月以降、十月には少し改善の兆しがありましたけれども、十一月、十二月以降、揺り戻しと申しますか、むしろ市場の中のストレスが強まる方向で推移してきたということでございますので、その辺の状況を踏まえた判断を明確に示させていただいております。
そして、先行きの日本経済につきましては、基本的な生産、所得、支出の好循環のメカニズムが維持されているということでございますので、基本的に私どもの判断、ややロングランに見た判断は変えていないということでございます。表現に多少の変化があるというのは、足元減速しているということを踏まえた変化でございます。
そして、基本的な金融政策の運営方針につきましては、我々は、一定のペースで金利の引き上げをするということは初めから一切申し上げておりません。経済あるいは物価の将来の推移が基本的なシナリオに沿って動く限り引き上げの方向だということを言っておりまして、実際の引き上げのペースについては、経済、物価情勢の改善の度合いをきちんと判断して決定する。しかも、そのとき、物価情勢、経済情勢が改善していても、アップサイド、ダウンサイドのリスクがどれぐらいあるかというのをその都度丹念に分析し、判断した上で決めるということを申し上げておりますので、基調的な経済の好循環のメカニズムが維持されている限り、この基本姿勢とは両立するものであり、変更の余地は全くないものだということでございます。

階委員 今お話をお伺いしていますと、何となく、動かない理由をあれこれ言っているというような印象があるわけでございます。私は、先ほど、十年前長銀が破綻したと申し上げましたけれども、その当時、マーケットに関連する仕事をしておりました。総合資金部の政策投資担当というところで長銀の株価を日々ウオッチする仕事をしておりました。マーケットの怖さを肌身で感じております。
そういった中で、やはりマーケットに携わる者としては、常にアンテナを敏感にして、マーケットに異常な動きがあれば、迅速に、機動的に、そして適切に対応する、そういうことが肝要である、そのように私は肌身に感じておりますが、その辺についてどのようにお考えでしょうか。

○福井参考人 私は、繰り返し記者会見でもその点について明確に申し上げておりますけれども、市場と日本銀行との濃密なコミュニケーションが要る、そして先行きの判断について常に可能な限りのすり合わせが要る、ただし、行動パターンは違うんですと。マーケットというのは、新しい情報に対して過敏に反応し、揺れ動きながら次の均衡点を探るんです。日本銀行は、そういうふうに揺れ動く政策ということはできないんです、すべきでないんです。ずっと先を読みながら、基調判断のもとに人々に安定した金融経済条件を提供していく仕事なので、行動パターンまでそろえると日本銀行の金融政策は迷走します、そういうことはできませんというふうに申し上げています。その違いでございます。

階委員 要は、木を見て森を見ず、そういうことじゃいけないという御趣旨かなと思うんですが、やはり、非常に難しいことであるんですが、マーケットに携わる者は、木も見るし森も見る、両面での対応が日々迫られているのかなというのが私の感想でございます。
それと、今のこのペーパーに沿ってもう一点だけ質問させていただきますけれども、最後の方に、銀行から買い入れた株式の処分ということで、十二月末時点の保有株式の簿価は約一兆五千億円、これは前回報告時より一千億マイナスになっております。つまり、一千億簿価ベースで売却ということでございますが、その利益についてどうなっているのか。また、今現在、株価の下落に伴って、簿価一兆五千億について含み損益はどのようになっているのか、それをお聞かせください。

○山口参考人 お答えいたします。
まず、年末時点の簿価でございますが、私ども、先ほど一兆五千億ということで総裁の方から申し上げたところでありますが、その時点での含み益は一兆二千億円程度ということであります。
それから、十月から売却を始めたわけでありますが、それまでの間の処分額でありますが、約九百億円ということであります。
以上でお答えになったかと思いますが……(階委員「九百億の利益は」と呼ぶ)利益につきましては、この段階では、市場で売りました額が十―十二月で、市場といいますか全売却代金が一兆四千億円であります。簿価ベースでの売却額が九百億円ということでありますので、五百億円程度の利益である、こういうことでございます。(階委員「ちょっと済みません、今、売却額」と呼ぶ)
要するに、十月から十二月までの売却代金の合計額は一千四百億円であります。これに対して、簿価ベースでそれを計算いたしますと約九百億円ということでありますので、この差し引きであります五百億円が利益ということでございます。

階委員 さっき一兆四千億売却したというふうにお話しになったので、今確認させていただきました。一千四百億売却して、簿価は九百億だから差額は五百億、こういうふうに承りました。

○原田委員長 山口理事、もう一回。

○山口参考人 お答えいたします。
単位を間違えまして失礼いたしました。先ほど申し上げた数字が正確な数字ということでございます。

階委員 それでは、事前に準備していた質問に移らせていただきます。
まず、景気の地域格差ということについてお伺いしたいんですが、お手元に資料を一枚配らせていただいております。こういったグラフでございますけれども、今回の日銀短観のデータ、全国の業況判断DIと地域によっての同じDIがかなりばらつきが出ていると思います。例えば岩手県の場合だと、全国がプラスの二であるのに対してマイナスの一七である。ちなみに、福田首相の地元はプラス一六と、かなり地域間でばらつきが出ておりますが、この原因をどのようにとらえるかというのをまずお聞かせ願えますか。

○福井参考人 群馬県と岩手県の比較というのはなかなか難しいんですけれども、全国と岩手県の比較といいますか、全国と地方との比較ということになりますと、委員も御承知のとおり、今回の景気拡大というのは、国内の構造調整の進捗と絡んで実現している、より大きく世界経済の拡大を背景として起こっている、こういう背景、あるいは景気回復の仕組みの違いがございますために、一言で言いますと、世界経済との結びつきが強く、過剰債務などの構造的な問題に早目にめどをつけることができた大企業、とりわけ製造業大企業の業況の改善が目立っている。その一方で、中小企業などにはそこまでの景気拡大の実感がなかなかわいてこない、こういうことだと思います。こうした違いは、それぞれの立地する地域ごとの回復の程度のばらつきにつながっているというふうに思います。
御指摘のとおり、岩手の業況判断DIは全国に比べて低い水準にとどまっておりまして、中身を見ますと、とりわけ建設業や卸、小売業など非製造業の業況が低迷しているということでございます。グローバル経済との接点の濃淡等によってこの差が出ているということでありますが、私が見ておりますと、岩手県の場合にも、製造業はそこそこに業況判断は改善しているということであります。したがいまして、なかなかここのところは、非製造業の問題がより深刻だということは確かだというふうに思っております。

階委員 今、このデータをお示ししたところ、皆さん余り知られていなかったようなデータで、結構意外感を持たれた方も多かったと思うんです。こういったデータですけれども、日銀短観の通常公表される資料では、企業の規模別のデータというのはあるんですけれども、地域別のデータというのは出されていないんですね。
私は、こういうのを地元の日銀の事務所さんとかそういうところで出しているものから拾ってきたのでございますけれども、今、景気の地域格差、そういうことが言われている中で、短観の資料にこういったデータも入れていただくとより景気の実情が把握できるのではないかと思いますが、この点についてはどのようにお考えでしょうか。

○稲葉参考人 地域別のデータのお話でございますけれども、委員から御指摘がございましたように、地域の動向に関しましては、日銀の各支店等では、地域の動向に関して把握したいという地元ニーズにおこたえするということで、地域ごとの調査結果を公表しているわけでございますが、日銀としては、こうして集計された地域別業況判断につきましては、全国九地域にまとめまして、参考情報の一つとして「さくらレポート」、地域経済報告に実は掲載して御説明しているところでございます。「さくらレポート」は、本支店の調査担当者によるミクロのヒアリング情報等も記載されておりまして、それらとあわせて見ていただきますとそのデータがよりわかりやすくなるのではないか、こういうふうに考えてやっておるわけでございます。
いずれにいたしましても、地域別のデータの扱いにつきましては、今後ともいろいろ工夫をしてまいりたいと思っています。

階委員 そういうことで、景気の地域格差が見られるわけですけれども、こういった地域格差ということは日銀が金融政策を決定する上でどのように考慮されているのか。やや抽象的な質問で恐縮ですが、お願いできますでしょうか。

○福井参考人 日本銀行は全国に三十二の支店を置かせていただいております。そのほかにごく小さな規模の十四の事務所を持っておりますが、それらを通じまして地域経済の現状の把握に努めております。その成果は支店長会議などを通じて本店に伝えられております。来週火曜日にもことし最初の支店長会議を予定しておりまして、各地の最新の動向について支店長から報告を受けることになっております。そして、その結果は、さらにその翌週に予定しております金融政策決定会合の議論に生かしていくというふうな仕組みになっております。
日本銀行では、各地域の動向を本支店のネットワークをフルに活用させて丹念に調査しました上で、それらを総合した日本経済全体の動向というマクロ的な観点から翻訳しながら、適切な金融政策を行うよう努めております。全国地域の状況が日本経済全体の循環メカニズムの中でどれぐらいそれを促す要因になっているか、あるいは逆にブレーキをかける要因になっているかということを十分分析しながら判断をしているということでございます。

階委員 それでは、話題がかわりまして、サブプライム問題について私もちょっとお聞かせ願えればと思います。
先ほど、鈴木克昌委員の方からの質問に対して、国内の預金取扱金融機関の保有高が一兆四千七十億、また、その含み損が九月末時点で二千七百六十億というお話がありました。私は、そのほかに、預金取扱金融機関以外の証券とか保険とかそういった金融機関であるとか、また一般の事業会社であるとか個人投資家、こういったところで、国内ではどれだけ保有されて、また含み損失があるのか、その辺を聞きたいと思いますが、いかがでしょうか。

○山口参考人 お答えいたします。
繰り返しになりますが、預金取扱金融機関全体につきましては、昨年九月末時点で評価損と実現損合わせまして二千七百六十億円ということで金融庁が公表しておるところであります。
先ほども私の方からお答えいたしましたが、昨年秋以降、海外の市況を見ますと一段と下落しておりまして、これに伴って我が国金融機関の損失額も拡大している、このように思っておるわけであります。したがいまして、こうした状況でありますので、今後の動きについては相当注意深く見てまいりたい、かように思っております。
それから、お尋ねの、一般事業会社それから個人投資家、これらについての具体的な損失状況、このあたりをどう把握しているかということにつきましては、計数的には私どもとしては把握してございません。ただ、もちろん、今後、一般事業会社あるいは個人投資家等で何らかの大きな影響が出るということになるとすれば、そうした状況については注意深く見てまいりたい、このように思っているところでございます。
以上でございます。

階委員 サブプライム問題が経済にどれだけ影響を与えるかということで皆さん疑心暗鬼になっている中で、日銀としては今のような調査体制で果たしていいのか、そういうふうに思うわけでございます。どれだけの波及効果があるかというのをぜひ緻密に、具体的に調べていただければと思っております。
また、今のお話に関連しますけれども、昨今話題になっておりますのは、サブプライム関連を含む金融商品を保証しているモノライン、日本語で言うと金融保証会社ですけれども、これが格下げとなった場合、サブプライム以外の金融商品、これについてもモノラインが保証しておりますので、格下げの影響がほかの金融商品にも及んで、証券化商品全般に大きな損失が発生するのではないか、そういった懸念がありますけれども、この点について実情を把握されているのか、また、今後の見通しなどについてお聞かせ願えればと思います。

○福井参考人 これは、単に日本銀行と申しますよりは、世界的に中央銀行の共通の関心事項になっております。
なかんずく、本拠地である米国の連邦準備制度において強い関心を持ってウオッチしておられるというふうな状況でございますが、実際のところは、御指摘のとおり、まず格付会社は、サブプライムローン問題の影響による財務悪化の懸念から一部の海外モノラインに対する格付の見直しに着手する、こういうことを表明しています。これに対して、モノライン側では何もしていないかというとそうではなくて、財務の健全性を維持することで格下げを避けなきゃいかぬ、これを回避すべく資本増強を検討しているというふうな状況にあると承知をしております。
したがって、モノラインに対する格付の変更が金融商品の市況に何がしか影響を及ぼし得る、そこはリスクだというふうに見られておりますけれども、今申し上げましたような状況にかんがみれば、どの程度のリスクとしてこれを把握すべきものなのか、今後の格付会社の動向とモノライン側の資本増強の状況、このかみ合わせの中で判断していかなければなりません。したがいまして、今、一方的に仮定を置いて判断を固めるということはむしろ誤りにつながるリスクがありますので、そこまでは踏み込んでコメントができる状況にはなっておりません。
いずれにしても、各中央銀行ともに、ここの点は注意深く見ていきたいというふうに思っている点でございます。

階委員 サブプライム関連についてもう一つお伺いしますけれども、サブプライム関連のRMBS、証券化商品、さらにはそのRMBSを組み込んだCDO、こういったものに高い格付を与えつつ、かつ原資産であるサブプライムローンが多少デフォルトになったということで一気に格付を下げる、こういった格付会社の行動、これについて対応に問題はないか、お考えをお聞かせください。

○福井参考人 全く問題がないかどうかは、なかなか難しいところだと思います。
格付会社というのは、発行体の信用力に関する一つの、何と申しますか、彼らの言葉によれば科学的な判断を示していくということでありますので、状況が変わったら判断も変わるというのは、本来備えた性格でもある。ただし、それが行き過ぎてはいないかどうかという判断になってくるわけであります。
格付会社自身のいろいろな率直な話を聞いておりますと、今回のケースについては、複雑な商品を対象に自信を持って格付をしてきたけれども、振り返ってみると、みずから反省すべき点もあるというふうな感じを持っておられるような雰囲気もございますが、過去、もう十年以上にわたり、格付会社の問題については、結局のところその適正性は市場の中で評価されていくべきものだ、現に評価されてきているというふうに考えられています。今回の場合も、結局、格付会社に対する評価はいずれ市場がきちんと下していくというふうに考えられるところでございます。
したがいまして、これを利用する金融機関におきましては、投資商品の抱えるリスク、リターンについて、格付会社による格付はもちろん利用するにしても、みずからの持っている材料をつけ加えて能動的にこれを判断していくという姿勢が何よりも重要でございます。過度に格付機関の格付に依存して過大な投資をするというふうなことがもしあったとすれば、これは今度は金融機関側の反省材料になるということでございまして、今後とも、私どもは、考査やオフサイトモニタリングを通じまして、金融機関のそういう意味でのリスク管理の能力の向上に向けて引き続き我々としても努力をしてまいりたいというふうに思っている点でございます。

階委員 過度に格付に依存しないようにというお話でしたけれども、日本銀行さんとしても、市中の金融機関に資金供給する際などに担保をとると思うんですが、そういう担保にとるCPとか、いろいろなものについては格付を考慮されて担保にとっているかと思います。
この点について、やはり日銀さんとしてもちゃんとリスク管理をしているかと思うんですが、そのあたりはどのようにされているのか、ちょっとお聞かせ願えますか。

○稲葉参考人 日銀の担保受け入れ等の際の格付の扱いでございますけれども、貸し出しの担保あるいはオペの対象資産につきましては、日銀の資産の健全性を確保するという見地から、信用度及び市場性が十分あるかどうか、あるものに限り適格としているわけでございます。
そうした中で、信用度の判断に関しましては格付機関の格付も活用するということにしておりますが、例えば民間企業が発行する社債、CPあるいは手形につきましては、格付機関による格付だけではなくて、私どもの得られました情報、あるいは当該企業の財務指標等、さまざまな情報を勘案して総合的に信用度を判断するということで適格かどうかを決めております。

階委員 また話題がかわりまして、為替と金利についてちょっとお聞かせ願えればと思います。
最近は円高・ドル安という動きですけれども、少し前までは円安かつ低金利ということで投機筋による円キャリートレードがなされやすい状況にあったと思います。そういった中で、最近の円高の動きを正常化に向かう動きと見るのか、それともネガティブにとらえるのか、その辺について御見解をお聞かせください。

○福井参考人 為替相場の動きにつきましては、私どもは、いいとか悪いとかいう評価を一々加えるというふうなやり方ではなくて、なぜそういう為替相場の動きになっているかということを常に客観的に要因を把握する、そして経済に対するインプリケーションを引き出すというふうなやり方で臨んでおります。
円ドル相場のベースで申し上げれば、委員御指摘のとおり、昨年の夏ごろまで円安傾向が続いておりました。市場の中のボラティリティーが小さいもとで、内外金利差がいわゆる円キャリートレードを招きやすい状況にあったということだったというふうに思っています。
その後は、米国サブプライム問題に端を発した国際金融市場の動揺を背景に市場のボラティリティーが非常に高くなったということで、こうした動きにはブレーキがかかってまいりました。特に、米国経済への懸念あるいはポジションの巻き戻しの動きなどが目立つようになってまいりまして、逆に少し円高が進行してきたということでございます。
こうした為替相場の変動、これは輸出入や企業収益、さらには企業あるいは消費者の心理、企業のバランスシート等、さまざまなルートを通じて経済に影響を及ぼし得るものでございます。私どもは、そうした観点から、為替相場あるいはその他の金融市場の動きも含めて、引き続き経済へ及ぼす影響という点に重点を置きながら分析し、判断を重ねてまいりたいというふうに考えております。

階委員 もう一つ、円高・ドル安になっている一つの要因として、昨年の九月末に金融商品取引法が施行されて、それ以降、個人投資家、それまで海外の金融商品への投資を活発化していたものが、金融商品取引法で業者の規制が厳しくなって海外へお金が向かわなくなった、それが円高につながっているのではないか、そういう考え、見方があると聞いておりますが、その辺については日銀さんとしてはどのように分析されていますでしょうか。

○稲葉参考人 金商法と為替の関係でございますけれども、金融商品取引法は、幅広い金融商品を対象に利用者保護の枠組みを整備する、そういうこと、それからプロの投資家との取引における規制の緩和の推進、こういったことなどを含めて、利用者の特性に応じた柔軟な規制体系を目指したものというふうに私どもは理解してございます。実際、同法が九月末に施行されて、金融機関は商品内容の説明をより丁寧に行うようになったというふうに聞いてございます。
そこで、外貨建て投信でございますけれども、これまで伸びていた投信の増加は確かに昨年夏ごろから鈍化してございまして、この背景でございますけれども、例えば、サブプライム問題が深刻な状況になったといったようなさまざまな要因が作用しているのではないかというふうに判断しております。
一方、為替市場の方は、こういった外貨建て投信以外にもさまざまな目的で為替取引が行われておりますので、一つの取引形態だけを取り上げてその影響を市場として評価する、相場として評価するというのはなかなか難しいのではないかというふうに考えております。

階委員 時間が参りましたので、最後に一点だけ質問させていただきます。
今後の景気についてなんですけれども、私が一番懸念していますのは、先ほど、景気のリスク要因が多々あるということで、それが現実のものとなって、仮に景気が失速し、かつ一方で原油とか食料品価格の上昇等々によって物価高が進む、景気が失速して物価高が進むスタグフレーションと言われる状況になった場合、日銀の金融政策は非常に困難になるかと思うんですが、仮にそうなった場合どのような対応をとるおつもりなのか、御見解をお聞かせください。

○福井参考人 原材料高、エネルギー価格の上昇等は、日本経済だけでなくて世界経済全体に問題を投げかけています。企業収益を圧迫するなど景気に対して下押し圧力につながる、その一方で物価に対しては上昇要因となる、いわば厄介な代物であるわけでございますけれども、特に現状においては、米国あるいは欧州の経済において、景気のダウンサイドリスクと物価上昇懸念、つまりアップサイド、ダウンサイド両方のリスクをどういうふうにバランスをとった形で金融政策の運営を当面やっていくかということの困難さにより多く直面しているというふうに思います。
しかし、本質的には、委員御指摘のとおり、日本銀行の場合にも、同様の両方向のリスクに対して、この先いかにバランスのとれた対応を我々が適正な判断を持ってやっていけるかという局面に徐々に入りつつあるというふうに我々は認識しています。
当面は日本経済は減速を続けるものの、その後は物価安定のもとで緩やかな拡大を続ける可能性が高いという基本的な判断を今維持している状況でございますので、まだ少し時間的余裕がある。今おっしゃったような、また裂きになるような現象の中で日本銀行が苦しむかといいますと、それより以前に、世界経済の動向について、よりよきバランスのとれた状況に一刻も早く持っていけるような方向について各国の中央銀行と十分意見を交わす。そして、日本経済について、足元の減速はあるけれども、先行き、再び物価安定のもとでの緩やかな拡大のパスというものにより強い確信を持てるような状況に持っていく。この視点を踏み外さないで、日本銀行としては、本当にスタグフレーションというふうなリスクに陥る前から安定軌道の整備ということを丹念にやっていかなきゃいけないんじゃないかなというふうに考えております。

階委員 どうもありがとうございました。
これで質問を終わらせていただきます。