(以下は、先ほど公表された小沢氏弁護団によるプレスリリースです)

小沢一郎氏弁護団は,検察審査会による起訴議決の執行停止及び東京地裁による指定弁護士の指定の仮の差止めの申立てを却下した東京地裁決定に対し,平成22年10月21日,即時抗告を行いました。

しかし,翌22日,東京高裁は,実質的な審理を経ないまま上記地裁決定をほぼ踏襲する内容で即時抗告を棄却し,同日,同地裁は,かねてより当弁護団から起訴議決に無効事由があるため指定弁護士の指定を見合わせるよう要請していたにもかかわらず,指定弁護士を指定しました。

当弁護団としては,このような下級審の対応を到底容認することはできず,起訴議決及び指定弁護士の指定につき効力停止を得るため,本日,最高裁に特別抗告と許可抗告を行いました。特別抗告は違憲を,許可抗告は法令解釈上の重大な誤りを根拠とするものであります。ただし,理由書の提出は追って行うため,以下の内容は現時点で予定しているものです。

高裁による棄却理由は,起訴議決及び指定弁護士の指定の違法ないし無効は,刑事裁判で争えば十分だと言う点に尽きています。つまり,起訴議決は,検察官による起訴や裁判所による付審判決定に準ずるものであって,手続が進行し後に刑事訴訟の中でこれらの違法を争うことができることを前提にしつつ,本件のように刑事訴訟とは別に行政訴訟の場で起訴議決の無効等を争うことは,司法権の運営の機能性,効率性を害し,また,二重の司法チェックをすることになり,二つの訴訟制度が矛盾・重複する恐れがあるとしました。

しかし,まず,本件起訴議決のように,重大明白な違法があって無効とも言える極めて例外的な場合には,検察審査会による起訴議決を法的仕組みが著しく異なる検察官の起訴や付審判決定と同視した考えを前提とした上記のような議論は,当てはまらないものと考えます。

また,少なくとも,現実に起訴され,刑事訴訟が係属しない限り,行政訴訟との重複や司法権運営の効率性が害されるおそれが生ずることはありません。起訴議決と指定弁護士の指定の違法性について司法判断を求めている本件では,起訴以前の段階で,二つの訴訟制度が矛盾・重複するわけはなく,むしろ起訴議決の取消判決が確定すれば,本来無用の刑事手続を進める必要がなくなるのです。

さらに,本件では刑事訴訟の主題である犯罪構成要件事実の有無を争点としているのではなく,陸山会が申立人から4億円を借入れていたとの事実について強制起訴に必要な二度の議決がなされていないという,検察審査会の権限逸脱を争点としています。この争点につき行政訴訟で司法判断がされたら刑事訴訟で蒸し返すことはできないと考える限り,二重の司法チェックとはならないはずです。

加えて,刑事訴訟のみを認めるなら,起訴議決の重大な瑕疵以外に犯罪事実の有無が争点とならざるを得ず,審理の中で起訴議決の重大な瑕疵が認められれば,他の通常の刑事手続は全く無駄な手続となります。したがって,起訴議決の手続上の重大な瑕疵を争点とする行政訴訟を先行させる方が制度運営としてかえって効率的と言えます。

今回の下級審の言うように,起訴議決の重大な瑕疵を刑事手続でしか争えないとすると,救済が遅れ,申立人に重大な不利益(犯罪事実の有無に関する審理,捜査,逮捕,取り調べの精神的,肉体的,経済的負担など)を及ぼしかねません。本件の起訴議決の権限逸脱の主張は,今後真相が明らかになるであろう犯罪事実の有無に関するものではなく,すでに成熟している争点に関するものです。後の刑事手続まで待たせ,その手続でしか争えないとする理由がありません。

以上述べた点は,先例もなく,行政訴訟の処分性,刑事訴訟と行政訴訟の役割分担という重要な問題に関する法解釈であるため,許可抗告事由に当たります。そして,起訴議決に看過し難い無効とも言える重大な瑕疵があるにもかかわらず,起訴議決,指定弁護士の指定の違法ないし無効を一切行政訴訟で争わせないとする原決定は,適正手続の保障(憲法31条)及び裁判を受ける権利(憲法32条)に違反する誤った解釈であり,特別抗告事由にも当たります。最高裁判所が当弁護団の主張を汲み入れ,賢明なるご判断をなされるよう期待しております。