以下は、先日衆議院第二会館で行われた、小沢一郎代議士の弁護人である弘中惇一郎弁護士の記者会見の模様をまとめたものです。(文責:階猛事務所)
弘中
司法記者クラブ加盟以外からも参加希望がある、との声を聞いて、小沢さんのほうの方とも話して、場所をこちらに移した。
(小沢氏の政倫審招致問題について)私自身は弁護士なので、政治のほうの動きは、どうすればよいのかはよく分からないが、刑事弁護人としても看過できない問題があるので、弁護団会合の結果、この場を設けることとなった。
一言で言うならば、刑事弁護の立場からすると、今の段階で小沢さんが、そういった公の場(政倫審)に出て、刑事事件で問われているのと同じ内容の事柄をあれこれ質問されしゃべることを強いられるのは、非常に好ましくないと思う。
刑事裁判では、被告人質問は最後の段階に行うこととなっている。実際(の裁判でも)そうなっている。これは基本的には、憲法38条の自白にからみ、人権保障の観点から、被告人を真っ先に法廷に連れ出して尋問するのは好ましくないとして禁じられている。
例えば村木さんの場合でも、被告人質問は、すべての証人が終わり、6名の検察官の尋問が終わって、最後、結審の直前の段階で行われた。無罪だからといって、最初から被告人を法廷に座らせてあれこれ尋問するということは行われなかった。
なぜかというと、刑事事件では検察官に立証責任があるので、まず、検察官の出した証人、証拠について、法廷で検討、吟味、弾劾して、そこで裁判官に、その事件で検察官が提出した証拠にはどういう問題があるかを理解していただいた上で、最後の段階で「それでは被告人に対して質問いたします」こういう流れで行うことになっている。
小沢さんはまだ起訴はされていないが、2度の起訴議決によって強制起訴が法律で決まっていて、被告人そのものではないが、被告人に極めて近い立場であることは間違いない。間もなく起訴されて公判が始まる、という状況である。こういう状況にある方を、政治的な目的は分からないが、公の場に座らせて、刑事事件に関する事柄をあれこれ質問して答えろ、ということをするのは、刑事弁護人からすると大変困る。
刑事裁判にも影響する問題であり、なるべくなら避けていただきたい。そのことを刑事弁護人として申し上げたくて、今日ここにお集まりいただいた。必要があれば、質問にも答える。
毎日新聞・杉本
いま言われている小沢さんの問題は、起訴の内容や事件に関係すること以外にもある。(確認書、改革フォーラム21、政治塾経費を例示)これらにつき、われわれ報道する側、野党議員は知りたい、というところがあっての政倫審である。刑事事件だけ切り取るのは合わないのではないか。
弘中
冒頭で話した通り、私は政倫審をどうするべきか決める立場にはない。ただ、刑事弁護人としての問題を言っている。例示されたことも、刑事裁判の訴訟記録に出てくるものであり、刑事裁判でも質問される可能性があり、刑事弁護人としては(政倫審招致でそのようなことが質問されることは)困る。
毎日新聞・杉本
では、事件にちょっとでも関係がある内容は何もしゃべらなくてよい、というふうに拡大されかねないが、これは違うのではないか?
弘中
すべての人権は調整、折り合いをつけるのが必要なのだと思う。国民の知る権利がある一方で、小沢さんにも刑事被告人としての立場、人権もある。もし、政倫審をされるにしても、小沢さんの人権、刑事裁判の状況との折り合いをどこかでつけてほしい。
岩上(フリージャーナリスト)
先に出た、人権の折り合いについて。今回の小沢さんの件について、特殊に被告人の人権を重視するべきなのか、過去に政倫審を求められた政治家についても同様に配慮が必要なのか、考えを聞かせてほしい。
弘中
過去のすべてと言われると回答しようがないが、少なくとも、具体的に起訴、あるいはそれに近い状態にある場合には、人権は保障されるべきだと考える。
岩上
こうして責め立てられる政治家は過去にもいたが、こういった政治家について、過去だけでなく今後も、人権への配慮が必要と考えているのか。原理原則のところでの考えを聞きたい。
弘中
何もしゃべるなということではない。政治家に一定の説明責任はあるだろうが、刑事被告人となった場合には、刑事弁護の立場からすると、事件の内容についての具体的な内容の答えを強いられるのは好ましくない。
読売新聞・森下
起訴議決になった第五検審の議決の中で、『小沢さんがしっかり説明をしていない。法廷ではっきり示そう』とあった。これが市民の声である。こうした民意に、小沢さんは応えるべきではないか。
弘中
まさにおっしゃった通りで、刑事裁判の場で、もう単なる説明ではなく、証明というレベルで、具体的な証拠を以て説明しなくてはいけない。そういう場が迫っている時に、他の場で同じことをやるのは検察審査会も求めていない。
NHK(氏名不詳)
次の段階として、政倫審招致の議決がなされた場合でも、弘中先生がおっしゃった様な理由により困るから出席を拒んでいくのでしょうか?
弘中
私はそのあたりを決める立場にないので何とも言えないが、そもそも刑事弁護でどういうルールになっているか、またこういった問題では、知る権利とともに(小沢さんの)人権保障を十分に考えていただきたい。
NHK
今回の会見について、小沢さんから自身の欠席について何かご本人からコメントをもらっていれば聞きたい。
弘中
細かいことは立場上言えないが、昨日も会って意見交換をしている。
NHK
指定弁護士からは、任意の事情聴取をする意向が出されているが、先生としては予定が合ったら応えるべきか否か、どのように考えているか。
弘中
仮定の質問であり、またどういう必要性なのか分からないので何とも言いようがないが、一般論からすると、指定弁護士による補充捜査は、被告人を直接取り調べるというものではない。原則としてはおかしいのではないだろうか。
毎日新聞・タケシマ
(弘中)先生は弁護人、小沢代議士は政治家、ということで、できれば小沢氏本人の説明が聞きたかったが、先生がすることになった経緯を教えてほしい。
弘中
経緯としては、刑事弁護人の立場から説明してほしいとの依頼があり、弁護団会議で議論して、申し上げるべきということで、私の判断できた。
毎日新聞・タケシマ
(依頼は)小沢先生ご本人から?
弘中
特定については何とも言えないが、刑事弁護人としてどう考えるかということは、小沢先生からも、周辺の方からも問い合わせがあった。
読売新聞・森下
事情聴取について。当初小沢さんの弁護人になられたとき、調書を見て、『協力できる範囲は広くはない』と言っていたが、そういった考えは今も変わらないか?
弘中
先ほど言った通り、検審の議決に基づく補充捜査であれば、そこまでやる必要はないと思う。ただ、例外的にはありうる。それについては今も変わらない。
岩上
検察審査会について。行政訴訟をやりかけて、やめた、といえば少し違うかもしれないが、なぜ続けられなかったのか。また、検察審査会の議決にはおかしな点が出てきているが、これについての先生のお考えを伺いたい。
弘中
行政訴訟については、私はメンバーに加わっていないので、則定さん(メンバー)にお伺いしたところとなるが、最高裁から『これは行政訴訟にはなじまない』との判断が出たので、これ以上やっても結果は変わらないということで取り下げたようである。
2つ目(検審議決)の法的瑕疵については、我々も関心を持って検討している。これは難しい問題で、調べてみても、今回のようなケースを念頭に置いた議論が国会で立法するときにもなされていないし、解説書にも書いていない。
したがって、専門用語になるが、訴因の変更や公訴事実の同一性がどこまであるかといった法律問題が片方にあり、もう片方にはなぜ検審の2回の議決を必要としたかというプロパーな問題がある。これは裁判所でも初めてのもので、簡単なものではなく、重要な問題に取り組まなければならない。
岩上
重要な問題、ということで、訴因の変更などがでてきたが、これをもう少し噛み砕いて説明してもらえないか。
弘中
刑事裁判において、起訴後に訴因変更として公訴内容をある程度変更することはできるが、全く別の事件になってしまうような場合はゼロから起訴しなければならない。今回の件も、(第1回議決の事実と2回目『別紙犯罪事実』の間の)訴因の同一性という法律問題がある。
もう片方では、検審の議決による強制起訴というのは、検察官の判断で起訴の是非を検討する起訴独占主義の例外であるから、当初から検察及び検察審査会の審査の対象になっている範囲でしか訴因が認められないのが当然である。ただし、前例がないので、新しい問題として、そう簡単にはいかない。
岩上
2回の議決を経て、起訴ということになっているが、2回目の議決に、それまで検討されていなかった事実が入っている。これはどうだろうか。
弘中
それが大変な問題。これはもう2回の議決を経たとは言えない。だから我々としては、議決の無効を主張するが、無効だとばかり言って安心できるものではない。初めてのものなので、気を緩められない。
岩上
政倫審に出席させるには倫理にもとる行為が必要だが、小沢さんは何について問われているのかはっきりしない。どうなっているのか。(単に『政治とカネ』でよいのか)
弘中
刑事弁護人の立場を離れる問題なので、私的な感想として。政倫審に招致される場合、具体的な倫理違反行為、というのが1つの核になっていて審査をすることになる。漠然とした単なる噂があるから、聞いてみたいから招致するというレベルとは違う。この点、小沢氏の倫理違反行為というのはあいまいで、(政倫審に招致するのは)違和感がある。(了)