物価が上がり続ける中、賃金がそれに追いつかない状況が1年半も続いています。これでは、収入の範囲で買えるものが次第に減り、生活が苦しくなってしまいます。生活水準が悪化しないためには、物価以上の「賃上げ」が必要です。しかし、利益も内部留保も大きい大企業とは異なり、中小企業の賃上げはなかなか進まないのが現状です。

その理由の一つに、受注企業(売り手)が中小企業で、発注企業(買い手)が大企業の場合、強い立場にある大企業の意向で取引価格がなかなか上げられなかったり、弱い立場にある中小企業が取引価格の引き上げを要請できなかったりすることがあります。29日、政府は、受注企業が発注企業との間で価格交渉する際、賃上げ分も考慮してもらえるようにするための指針を公表しました。

指針では、発注者の経営トップが賃上げ分の取引価格への転嫁を受け入れる方針を内外に示すこと、発注者から受注者に対し、少なくとも年に1回は賃上げ分を取引価格に転嫁することを協議する場を設けることなどを定めています。この指針に反した発注者は、場合により、「優越的地位の濫用」や「買いたたき」として処分されることもあります。これが定着すれば、企業間の取引においては、受注する側の中小企業が賃上げ分を価格に反映しやすくなって、ある程度賃上げが進むかもしれません。

ただし、中小企業が消費者と取引する場合、どうやって賃上げ分を価格に反映するか、という問題は残されています。結局のところ、それぞれの中小企業の経営者が、消費者向けの価格を引き上げるかどうかを判断せざるを得ません。こうした問題について、25日に、盛岡市で飲食店経営者らとの座談会を開催しました。(その模様は、私の公式Facebookでご覧いただけます。)

皆さんにお話を伺うと、依然としてコロナ前の客数に達しない中、値上げでさらに客離れが進むことを心配しておられ、食材や人件費など経費の増加分を十分に価格に反映するのは難しい、とのことでした。そういう中で、人手の確保にも苦労しながら、なんとか生き残りを図っているのが現実です。賃上げを価格に反映できる大企業だけが賃金を上げていけば、そちらに働き手が流れ、中小企業の人手不足がますます深刻化します。

賃上げをすぐに価格に反映できない中小企業でも、なるべく賃上げの原資を確保できるよう、政府は、①円安の是正や省エネ設備の普及に全力を挙げ、人件費以外の経費の削減を支援する、②賃上げを行った中小企業には、将来の利益から納める法人税を減税するのではなく、過去の利益から納めた法人税を還付する、といった政策を速やかに実行すべきです。