収穫の秋を迎え、地元で農家の方々とお話する機会が増えました。りんご農家からは、春の低温、夏の高温、鳥獣被害で品質も数量も落ち込んだのに加え、燃料や肥料など生産費の上昇で経営が厳しいとの声を聴きました。ただ、こうした現状を販売先に理解してもらいつつ、価格を上げる努力をしている若手の農業者もいます。不都合な真実でも正直に伝えた方が、相手から信用を得られてプラスになることは、世の中ではよくあります。

他方、これとは真逆の態度を取り続けているのが日本銀行です。日銀は、これまで国債を無制限に買い入れることで長期金利を本来より低い水準にくぎ付けにするという、前代未聞の金融政策をとってきました。これに関し、31日の金融政策決定会合では、長期金利の上限について1%を「目途」とした上、「長期金利の上限を厳格に抑えることは、・・・副作用も大きくなりうる」ため、日銀が上限金利で無制限に国債を買い続けるかどうかは「金利の実勢等を踏まえて、適宜決定する」としました。

要するに、今後は、長期金利を日銀が決めた範囲内でコントロールすることはしない、という金融政策の大転換です。私が中心になって今年の2月3日にまとめた、立憲民主党の「新しい金融政策」では、長期金利を無理に低く抑えることが為替相場、財政規律、国債市場などに様々な弊害をもたらしていることを指摘し、賃金が物価を上回って安定的に上昇することが見込める段階で、長期金利の操作をやめることを提案していました。

今回、日銀はそのような段階に至っていないのに、長期金利のコントロールをやめざるを得なくなりました。長期金利を低く抑え続けた結果、円安による物価高が進んだため、金融政策を変更せざるを得なくなったように見えます。にもかかわらず、日銀は金融政策の「転換」ではなく、「柔軟化」だと言い張っています。

そして、長期金利が1%超えになることを認めながらも、長期金利の目標を「ゼロ%程度」とする従来の方針を継続するという、つじつまの合わない説明を繰り返しています。日銀は素直に失敗を認め、円安による物価高で生活者を苦しめたことを反省すべきです。

31日の会合では、物価の見通しも大幅に上方修正されました。3か月ごとに日銀が発表する物価見通しが外れ、大幅に修正されることは黒田・前総裁が就任して以来、繰り返されてきました。しかし、これについても日銀から納得できる説明はなく、改善の兆しもありません。結局、日銀が政策の大転換をしたにもかかわらず、円が売られ、円安が進みました。日銀は「通貨の番人」と言われ、通貨の信用を守る立場です。自らの信用を失いつつある日銀に、通貨の信用を守れるはずもなく、円が売られるのは当然の成り行きです。