昭和時代に野球少年だった私にとって、日本のプロ野球の名選手は「あこがれ」の存在でした。そして、米国の大リーグ(当時はメジャーリーグとは呼んでいませんでした)のスター選手は、「あこがれ」どころか「異次元」の存在でした。

歴史をひも解くと、そのスター軍団がはじめて来日して日本代表と戦ったのが昭和9年。当時はプロ野球がなく、日本代表の主将は、盛岡一高(盛岡中学)の大先輩である「久慈次郎」捕手でした。久慈主将が率いる日本代表は、ベーブ・ルースやルー・ゲーリッグなど伝説の選手を擁する全米代表相手に健闘したものの、16試合を戦って全敗でした。

しかし、それから約90年。奇しくも久慈次郎と同じ岩手県出身、そしてベーブ・ルース以来の二刀流「大谷翔平」選手が、WBC日本代表の大黒柱として大活躍し、決勝では米国代表を破って世界一を達成。私の少年時代には夢にも見なかったことが、実現しました。

その大谷選手が決勝戦の前に語った、「あこがれるのをやめましょう。あこがれてしまっては超えられない」という言葉も、歴史に残る名言です。この言葉は、米国選手との戦いを控えたチームメイトに向けられたものですが、さまざまな分野で高い目標に向かって挑戦する人たちにとって、胸に突き刺さる言葉だったと思います。

22日は、その決勝戦のテレビ中継に、朝から多くの国民が釘付けになりました。私の方は、ちょうど試合中に行われていた経済産業委員会で、西村経産大臣に対し、「GX推進法案」の質疑を行っていました。「GX」とは「グリーン・トランスフォーメーション」、日本語に直すと「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行」という意味です。

政府は、2050年までに温室効果ガスの排出量を全体としてゼロにする「カーボン・ニュートラル」を国際公約にしています。この国際公約の達成と産業競争力の強化や経済成長を同時に実現するという高い目標を実現するため、「GX推進法案」を国会に提出しました。この法案が成立すると、政府は、①「GX経済移行債」という新種の国債を今後10年にわたって発行でき、②これで得た計20兆円で「GX投資」を行うことができ、③国債の償還(返済)は温室効果ガスを排出する事業者などから徴収する賦課金や負担金を充て、2050年までに終える、と説明しています。

しかし、「GX投資」20兆円の使い道や、事業者から徴収する賦課金、負担金の仕組みを西村大臣に尋ねると、要は「具体的なことはこれから考える」という、ずさんな答弁でした。「GX」が単なる「あこがれ」で終わらぬよう、中身を練り直す必要があります。