急激な円安が止まりません。7日、為替相場は一時1ドル=145円に迫りました。1ドル140円を上回る円安ドル高は、1998年以来、約24年ぶりのことです。当時の日本は、金融危機の真っただ中でした。私は、その年の10月に経営破綻する日本長期信用銀行の総合企画部におり、為替相場だけでなく株式や金利の動向も日々注視していました。
バブル経済の崩壊で金融機関や証券会社の経営破綻が相次ぎ、日本経済への悲観的な見方が強まる中、国内外の投資家が為替だけでなく、株式も債券も売り急いで「トリプル安」の状況となったのを覚えています。その時の円安と今回の円安を比べると、同じ140円台の「円安」でも大きな違いがあります。
第1に、98年の円安は、「金融危機」が原因ですが、今回の円安は、日銀の「金融政策」がもたらしたものであり、「自作自演」だということです。米国をはじめ、諸外国がさらなる物価上昇を防ぐために金利を引き上げる金融の引き締めを行っている中で、日本だけが金利を低く抑える「異次元の金融緩和」を続けています。そこで、金利が低い日本の円を売って金利が高い米国のドルなどを買おうという動きが強まって円安が進んだのです。
第2に、98年の円安の時は、政府は4月と6月に計3回、合計約3兆円のドルを売り、円を買う「為替介入」を実施しました。6月の為替介入が行われた日には、1日で1ドル143円台から136円台に7円も円安が是正されました。このような円安からの「脱出努力」が今回の円安局面では一切見られません。日銀も政府も「傍観放置」するだけです。日銀は、賃金が上昇して経済が回復するまでは金融緩和を続ける方針ですが、黒田総裁が就任以来の9年半、同じことを言い続けてきました。ここ4か月は、賃金の伸びが物価上昇を下回る「実質賃金マイナス」の状態です。金融緩和を続けて経済が良くなる兆しはありません。
第3に、98年の円安の時は、原油など輸入品の価格が安定していた一方、テレビや自動車など輸出品がよく売れたため、貿易黒字が増える「円安メリット」がありました。ところが、今回はウクライナ戦争の影響で原油や穀物などの輸入価格が上がっても、輸出は伸び悩んでいます。貿易赤字が増大する「円安デメリット」が生じています。結果、輸入代金の支払いのために企業が円を売ってドルを調達する動きで、さらなる円安を招いています。
9日、岸田政権は予備費を使った「物価高騰追加策」を決定しましたが、低所得者への5万円の給付金やガソリン価格を抑えるための石油元売り会社への補助金など、従来の対策とさして代わり映えがしません。それよりも物価上昇の根本原因である輸入品価格を引き下げるため、価格上昇の実に半分の要因を占める「円安」を是正する方策を急ぐべきです。