今国会の予算委員会の質疑の中で、ある野党議員が紹介してくれた自衛隊関係者の言葉が印象に残っています。それは、「自衛隊の最大の敵はロシアでも中国でもなく、少子化だ」というものでした。政府与党は、米国との核兵器共有、敵基地攻撃能力の保有、防衛費の大幅増額など防衛力の強化には非常に熱心です。しかし、安倍元首相が「国難」と位置付けた少子化問題については、「突破」するどころか「悪化」する一方です。

昨年1年間に生まれた日本人の子どもの数は、昨年より3万人近く減って統計を始めてから最も少ない81万人となりました。結婚数も戦後最小の50万件となり、女性が一生に産む子どもの数を示す「合計特殊出生率」は1.3に下がりました。単純に計算すると、近い将来、二つの数字を掛け合わせた65万人ほどしか子どもが生まれなくなります。

このような結婚数や出生数の減少を食い止めるには、結婚適齢期の年代の所得を増やす必要があります。岸田首相は、賃上げした企業の法人税を減らす「賃上げ税制」を拡大し、労働者の賃金上昇を目指しています。しかし、これで恩恵を受ける企業は法人税を多く納める一部の企業のみです。財務省に賃上げ税制の利用見込みを尋ねたところ、大企業の9%、中小企業の3%程度とのことでした。これでは大した効果は望めません。

少子化の原因として注目すべきは、正規社員と非正規社員で年収に大きな格差があり、その結果、非正規社員では結婚率と出生率が低くなっているという事実です。最近の統計では、中小企業に勤める男性の場合、20歳~24歳の年収で、正規社員が310万円、非正規社員が244万円となっています。この格差は年齢層が上がるに連れて広がり、35歳~39歳の年収では、正規社員が461万円、非正規社員が276万円となります。

少子化を食い止めるには、非正規社員を減らし、正規社員を増やすべきです。しかし、雇う側の企業、特に全企業数の99.7%、全雇用者数の約7割を占める中小企業では、長引くコロナの影響や最近の物価高により、経営環境は厳しくなっています。その中で、給料のほかに社会保険料も負担しなくてはならない正規社員を増やすのは容易ではありません。

そこで、正規労働者を増やした中小企業については、これによって生じる社会保険料の半額を国が10年間にわたって助成し、事業者の負担を軽減する法案を、仲間の議員と共に立案。2日、衆議院に提出しました。岸田首相の「新しい資本主義」は、「人への投資」で格差を縮小するふれ込みでした。ところが、中身はアベノミクスと大差なく、少子化が止まりません。「人」がいなくなれば「人への投資」もできません。正規社員を増やし、結婚数と出生数を増やしていくために、「社会保険料軽減法案」の早期成立を目指します。