国会議員が裁判官によって裁かれ、その地位を失うことは時々あります。昨年も河井克行元法務大臣が選挙買収の罪で失職しました。反対に、裁判官が国会議員によって裁かれ、その地位を失うこともあります。衆参7名ずつの国会議員から成る弾劾裁判所において、3分の2以上の多数で「罷免」の判断をすれば裁判官を辞めさせることができるのです。
ただし、衆参10名ずつの裁判官訴追委員会が3分の2以上の多数で「訴追」しなければ弾劾裁判は開かれません。罷免の理由も、①職務上の義務に著しく違反し、または職務を甚だしく怠ったときか、②職務の内外を問わず、裁判官としての威信を著しく失うべき非行があったとき、に限られます。制度発足から約75年の間、弾劾裁判が行われた事案は9件、「罷免」されたのは7名のみです。
他の公職と違って、裁判官の地位が手厚く守られているのは、裁判官が何物にも左右されず、独立して公正中立な裁判をできるようにするためです。仮に人事権者の判断で裁判官の地位が奪われかねないとすると、権力者をそんたくする裁判官が増え、裁判の公平さや適正さが失われ、裁判への信頼が揺るぎかねません。もちろん、裁判官の側もその地位の重みを自覚し、地位にふさわしい仕事をしなくてはなりません。
4日の法務委員会の質疑では、三つの異なる裁判所の判決文で「NHK受信料」とすべきところを、「NHK受診料」とする過りがあったことを指摘。最初の判決文を後の二つの判決文を作るときに「コピペ」、すなわちパソコン上で該当箇所をそのまま転記したのではないかと追及しました。仮に「コピペ」だとすれば、裁判官が自分の力で判決文を書いていないことになり、裁判官の独立性とは相いれない背信行為です。「これは氷山の一角かもしれないので再調査すべきだ」と強く要請し、次回の質疑で回答を求めることにしました。
一方、約9年ぶりの弾劾裁判が2日から始まりました。私も14人の弾劾裁判員の一人で、第二代理裁判長を務めています。この裁判では、裁判官による業務外でのSNSを使った発信が問題となっています。訴追委員会は、犯罪被害者を侮辱する表現などがあったとし、上記の②にあたると主張。一方、弁護団は罷免に値する理由はないと述べ、全面的に争う構えです。前例がなく争点が多い、難しい事案です。今回初めて法廷で裁判員の席に座り、両者の真剣な主張を聴かせて頂く経験をしました。弁護士席から見る風景とは全く違います。
一歩判断を間違えば、関係者だけでなく社会全体に重大な影響を与えかねません。私たち弾劾裁判員も法律で「独立して職権を行使する」ことが求められています。何物にも左右されず、証拠と事実と論理に基づいて、国民が納得できる結論を出したいと思います。