公の仕事を担う民間の方々からの様々な要望に応えるのも国会議員の重要な役割です。最近では、障害福祉サービスを提供する事業者、災害時に被災者支援を行うNPO、義務化された相続登記の相談に応じる司法書士の方々などから、議員会館でお話を伺いました。

そのような公共性のある仕事を本業としない事業者であっても、必ず行っている国の仕事があります。それは、給与を支払う際の所得税の源泉徴収(天引き)です。これが日本で始まったのは1940年で、戦費を効率的に集めるためでした。戦後になって、民間事業者に源泉徴収を行わせることは憲法に反しないかが裁判で争われたことがあります。

1962年、最高裁は、源泉徴収は国や従業員にとってメリットがあるだけでなく、給与を支払う事業者にとっても「利するところ全くなしとはいえない」として合憲としました。所得税を天引きして翌月10日までに国に納付すればいいので、しばし手元に資金が残って資金繰りが楽になるという理屈でした。だとすれば、6月から一人当たり3万円の所得税減税が始まると、天引き額が減って「利するところ」は普段より少なくなります。

それだけでなく、給与の金額や扶養家族の数によって天引き額が変わり、これが数か月続くため、通常より源泉徴収の事務負担は重くなります。仮にこの事務負担を避けようとして、年末調整で減税分を一括して天引き額に反映させたとすると、労働基準法違反で30万円以下の罰金の可能性があります。「利する」どころか、大いに不利です。

加えて、減税で天引き額がいくら減ったのかを給与明細などに記載する事務も生じます。5日、私が主催する党の会合では、減税額を給与明細に明記しなければ1年以下の懲役または50万円以下の罰金という定めがあることが問題となりました。国税庁の担当者に対して「本当に処罰されるのか」と何度も尋ねましたが、明確に否定できませんでした。

これでは、給与を支払う側にとって「利するところ」より、不利益の方がはるかに大きいと言わざるを得ません。最高裁の判例に照らすと、今回の減税について民間事業者に源泉徴収を行わせるのは、違憲の可能性があると思います。岸田政権は「所得減税の効果を実感できるようにするため」として、民間に源泉徴収の事務負担を押し付けていますが、自民党が元凶となった政治資金問題への取組みの効果こそ、実感できるようにするべきです。

にもかかわらず、6日、自民党は公明、維新と政治資金規正法改正案を合意し、政策活動費の明記も裏金議員の処罰も中途半端なまま、衆議院を通過させました。岸田政権には、減税額の給与明細への明記を義務付けたり、違反者を処罰したりする資格などありません。