「事業性融資」とは、不動産担保や個人保証に頼らないで行う融資のことです。以前は、信用力の乏しい中小企業が融資を受けるには、不動産を担保として提供したり、経営者が保証したりするのが当たり前でした。この「常識」が事業拡大や事業承継の障害になっていたため、私が銀行内で弁護士をしていた20年ほど前から、政府は中小企業向けの事業性融資を広めようとしてきました。しかし、これまで目ぼしい成果は上がっていません。

そこで金融庁は、会社の事業を丸ごと担保にする「事業価値担保権」という仕組みを盛り込んだ「事業性融資推進法案」を、今国会に提出しています。借主からこの担保の提供を受けた貸主は、いざという時は裁判所に担保実行を申し立てて、借主の事業を第三者に売却して得たお金で貸金を回収することができるようになります。

反面、その事業に関わる従業員にとっては、経営者が変わることで身分や待遇が不安定になる可能性があります。「連合」など労働者側からは、担保を実行する前に労使協議を行うようにして欲しいという強い要請が出ています。これについて、17日の財務金融委員会で、鈴木金融担当大臣は「重要なことだ」と答弁しました。

しかし、担保を実行するのは貸主であって経営者ではありません。経営者は、担保が実行されることを事前には知らないのが通常です。仮に知っていたとしても、労使協議を行ったら情報が外に漏れます。債権者が押しかけて重要な財産は持ち帰るなどして、「事業価値担保権」が害されるのは明らかです。それゆえ、担保を実行する前に労使協議などできるはずがないというのが、弁護士時代の経験を踏まえた私の見解です。

そこで、「申立ての直前に従業員とやり取りすることが可能なのか」と尋ねると、金融庁の担当者は「可能な場合がないとは言い切れない」と、どっちつかずの答弁。確認のため「現場の声を聞いて答弁しているのか」と質問すると、話をそらしたため審議が中断。最後は、「現場の声を聞いた記憶はない」と白状せざるを得なくなりました。

現場の実務とかけはなれた「机上の空論」は、他にもあります。金融庁は、「企業価値担保権」ができれば、融資を受けやすくなると言います。しかし、この担保は会社を支配する手段ともなるため、貸す側の責任も重くなります。まともな金融機関ほど審査が慎重になって借主は融資を受けにくくなるかもしれません。この疑問にも金融庁は答えられませんでした。

当然ながら立憲民主党は反対しましたが、法案は修正されることもなく21日に衆議院を通過。これでは「事業性融資推進法案」という名前も、「机上の空論」になりそうです。