4日に審議が行われた振り込め詐欺被害者救済法案。与党案と民主党案の3つの相違点について、財務金融委員会の理事会で協議が行われ、与党案に民主党案を一部取り込んだ委員長案が新たに作成されました。

①被害者と預金者に二重払いを余儀なくされた金融機関が預金保険機構に損失補填を求める場合の要件緩和や、②政府等に本制度の周知公表を義務付ける規定は取り入れてもらいましたが、③被害回復の迅速化と被害申請機会の拡大のための手続一本化については認められませんでした。その代わりに、与党案では30日間であった被害申請期間が事実上90日間に延長されました。

この委員長案が5日の衆議院の財務金融委員会に提出され、委員全員の賛成で可決されました。近日中に衆議院の本会議でも可決され、参議院に送付される見込みです。

民主党案の立案にはじまり、党内での合意形成、委員会での趣旨説明と答弁、委員長案作成の際の与党との交渉など、すべてが初めての経験でした。議員になって早い段階で議員立法の経験ができたことは幸運であり、今後の活動に活かしていきたいと思います。また、今回の立法作業で大変お世話になった衆議院法制局の橘幸信第二部長以下、優秀なスタッフの皆さんにこの場を借りて厚く御礼申し上げます。

【議事録】

168-衆-財務金融委員会-6号 平成19年12月04日

○階議員 今回の民主党案の立案は主に私が担当しましたので、私から答えさせていただきます。
私は、先般、七月二十九日の補欠選挙で当選させていただいて、今臨時国会からこの委員会の委員として活動しておりますが、それ以前は金融機関の社内弁護士をしておりました。そういった中で、振り込め詐欺の被害者からの被害申告に対して銀行としてどのように対応するかという問題について、もう長年頭を痛めてきた、そういうことがあります。
たとえ振り込め詐欺による振込金であっても、法律上は預金者との間で預金契約が成立するものであって、銀行は預金者に無断で振込金を被害者に返還することができないという原則があります。通常ですと、これを解決するためには、被害者から預金者に対して振込金を返還せよという民事訴訟を起こしてもらって、勝訴判決が確定して、それに基づいた強制執行、差し押さえがあって初めて銀行から振込金が返還されるということでございます。
しかしながら、御案内のとおり、このやり方では、被害回復にお金も時間も労力もかかってしまいます。裁判手続によらず、簡易迅速に被害回復がなされるような法制度の必要性、私は、社内弁護士の時代からかねがね感じておりました。
そういった意味で、弁護士でもあり、また金融機関に勤務しているということでもあり、私自身が当事者としてこの問題にずっと取り組んできたという経緯があるわけでございます。また、そういった中で、さきの通常国会でいち早く振り込め詐欺の被害者救済に関する法案提出に至った与党の取り組みに対しましては、心から敬意を表するものであります。
しかしながら、私の実務の経験を踏まえますと、被害回復の迅速性、被害者の手続参加の容易性、また、金融機関による手続の利用促進という面においてなお改善の余地があると思われます。
そこで、私の方で案をつくりまして、それをたたき台として党内で議論を重ね、与党案を尊重しつつも、被害回復の迅速化、被害者の手続参加の容易化、また、金融機関による手続の利用促進が図られるような法案ということで提出させていただいたというのが今の民主党案でございます。

○小川(友)委員 民主党提出者に再度お伺いします。
だからこそ、この法案を提出しているんです。今おっしゃったような趣旨に沿ってこの法案が提出されているわけです。
私がお伺いしたのは、法案を提出するに当たって、今、金融機関、銀行は両替するにも手数料を取るんですよ。そしてまた、新券を発行していただくにも手数料を取るんです。今回は、実務は、ほとんど金融機関、銀行がそれを担うわけです。その金融機関に対して、どのような考えがあるのかという協議がなされていないということはおかしな話ではないかなと思うんです。
再度お伺いします。三十条で、保険機構には手数料が支払われるように明記されています。その辺、どのようにお考えなのか、再度お伺いします。

○階議員 今申し上げましたとおり、私は銀行の実務経験を踏まえてこの法案をつくっていまして、この法案であれば銀行としてもしっかりと取り組んでいただけるということで、また与党案の内容も十分尊重してつくっておりますので、御懸念のようなことはないかと思います。

○小川(友)委員 与党案提出者にお伺いします。
一年をかけて全銀協等との協議を重ねてきたと思うんですが、金融機関にとっては、こういうふうな法案が通れば、当然実務が煩雑化してきて、経費もかかるわけですね。まさに公的機関としての役割として、手数料を取らないでこの法案に対応するということだと思うんですが、その辺の金融機関のお考え等を、協議した中で何かありましたらお答えいただきたいと思います。

○葉梨議員 今、小川先生からもお話あったんですけれども、基本的にいろいろな実務を金融機関にやっていただくということになりますので、相当綿密な打ち合わせをしてこなければ、なかなかこういうような法制というのはできないということも事実でございます。
ただ、金融機関にとっても全くメリットがないわけではございません。といいますのは、実際のところ、先ほど関委員からの御指摘にもあったように、非常に金融機関自身が、この振り込め詐欺で滞留しているという事実に、迷惑がっているといいますか、それを、例えば口座名義人に対して十年間通知をしなければ、取得時効で自分のものになるんだけれども、かといって、片っ方で被害者がいる。そういうところは、本当のところを言えば、やはり被害者に還付を迅速にしたいんだけれども、そこのところが法律的にも整備されていない。
実際問題として、口座を管理していくということになりますと、やはりそれだけのコストも当然かかってまいります。ですから、そこら辺を総合的に勘案して、では銀行としてはどこまでできるんですかということを詰めに詰めて、こういうような法制度にさせていただいたということなんです。
預金保険機構についても同じでございます。預金保険機構とも協議をいたしまして、やはり預金保険機構の中でも、今現在、名寄せをする以外の、口座というのをしっかり把握する、そういうような必要性がある。そういうような、本来業務も踏まえて、一体、預金保険機構さんどこまでできるんですか、全銀協さんどこまでできるんですか。
ただ、全銀協さんだけがガイドラインをつくるということだったら、やはり被害者の方々には、本当に被害者のためというふうに胸を張れる形になるかどうか。やはり客観的なものというのも必要じゃないでしょうか。では、それでしたら、全銀協さんがガイドラインをつくるときには、やはり日弁連さんの担当委員会ともこういう形でお話ししたらどうでしょうかということをこの法案作成の中でつくってまいりました。
ですから、これは先ほど、与党が主導でというふうに申し上げましたけれども、それだけではなくて、やはり銀行協会も、あるいは預金保険機構も、あるいは日弁連も、みんなが共同作業で、それぞれがどういうような事務を分担するんだということを話し合った上で、この法案を提出させていただいておるということでございます。

○小川(友)委員 本法案、両党の法案を見てみますと、大きい相違点というのはそんなにないんですね。大きく変わるのが、いわゆる一元化、公告の手続の一元化の部分が大きく変わるのかなというふうに思います。そのほかには立証責任に係る規定とか、先ほどもお話がありましたけれども、政府の周知、公表に係る責務規定等が、与党案と民主党案との差異があるわけでありますけれども、大きな相違点に対してちょっと質問をさせていただきたい、民主党案に対して質問させていただきたいと思います。
預金等に係る債権の消滅手続に係る公告が六十日、そして被害回復分配金の支払い手続に係る公告が三十日、これを一元化なされています。この公告期間を六十日とすることに至った理由を御説明いただければと思います。

○階議員 ちょっと図を用意しましたので、こちらを拝見していただきながら御説明を聞いていただければと思います。済みません、ごめんなさい、小さくて申しわけないです。
与党案、失権手続と支払い手続ということで、最初の六十日間が失権手続でございます。ここで名義人の権利を消滅させる。その後三十日間、今度は被害者の方を広く募って、そして被害者を確定して分配手続を行う、こういう二段階の手続で、トータルで九十日ということでございます。
しかしながら、被害者の参加できる部分、先ほど葉梨先生からも御説明ありましたけれども、事実上、被害者が最初の失権手続のところから参加できるんだというようなお話もございましたけれども、明文上、与党案ですと、手続に被害者が参加できるのは後段の三十日の部分だけになっております。
ちょっとひっくり返しましたけれども、私どもの案は、この手続を一本化することによって、全体の期間は六十日に短縮した上で、かつ被害者の方は手続の当初から参加できます。つまり、被害者の参加できる期間は三十日から六十日間に延びました。また一方で、手続全体に要する期間は九十日から六十日に短縮されました。そういったことで、被害回復の迅速化、それから被害者の方の手続保障両面において改善がなされたということだと思います。

○小川(友)委員 今説明をいただきました。
基本的に消滅手続は強制的な手続ですね。そしてまた、このことは名義人にしっかりと十分な告知期間がなくてはならないというふうに思います。
あわせて、支払い手続に入るには、その口座が、今まで、それぞれ金融機関が認めたとかいろいろあって、法的にいわゆる失権していることが大前提だと思うんですね。失権がしていない個人の、要するに失権がしていない、私権を制約していくわけですから、失権することが大前提だというふうに思います。
そのような意味で、私は、この一元化に関しては無理があるのではないかなというふうに思うんですけれども、再度御答弁をいただければと思います。

○階議員 今、被害金の分配の大前提として失権を確定する必要があるということでございましたけれども、支払い手続の円滑な実施のためには一方で対象預金口座等が消滅している必要というのもあるでしょうけれども、支払いの申請をする段階では何も、前段階として権利を消滅させている必要はないのではないか。申請をする分には、別に権利が消滅していなくても自由に行わせていいのではないか。
最終的に被害者の方に分配する段階では、その段階では、公告期間が終わってからになりますから、公告期間の終了時に権利は消滅しております、口座の方は消滅しておりますので、それから分配をするということでございます。
支払いの申請については確かに権利が残っている段階でやりますけれども、分配の段階ではもう権利は消滅しているので、これは問題ないのではないかというのが私どもの考えでございます。

○小川(友)委員 関連して再度お伺いします。
被害回復分配金の支払い手続が実施されていることを知らない被害者、自身がいわゆる振り込め詐欺等の被害に遭ったことを認識していない被害者が存在し得る可能性ということは当然想定がされると思います。
そのような意味で、三十日という支払い申請期間というものはちょっと短過ぎるのではないかなというふうに、要するに支払い申請期間が三十日間であるということは短過ぎるのではないかなというふうに考えますが、いかがお考えでしょうか。

○階議員 今のはおっしゃるとおりだと思っていまして、私どもの案は、三十日間だと被害者の支払いの申請の期間としては短いということで六十日間設けておりますので、そういった意味で、被害者の保護には我々の方の案が資するのかと思います。

○小川(友)委員 与党として、今の民主党、野党案を聞いていてどのようにお考えになっているか。この一元化、二元化の方がいいというのが与党案ですよね。その辺をどうお考えなのか、お伺いします。

○柴山議員 後段の三十日間の権利の届け出期間というものが、もしこれが単体で、被害者保護のための救済期間として、そこで終わりなんですよということであれば、それは若干短いのかなという感触もあると思います。
しかし、先ほど来御説明をさせていただいているとおり、既にその前提として六十日間の公告等の手続がありますので、少なくとも、被害者と見込まれる方は、その期間内に自分の被害について認識する機会というものは確保されているわけです。
それを前提とした上で、その申請のみの期間を三十日という期間に限ることは、先ほど御説明があったかと思いますけれども、確定刑事事件等に係る犯罪被害財産等による被害回復給付金の支給に関する法律との均衡からいっても、必ずしも短いとは言えない。むしろ、被害回復の迅速性ということに重きを置いた形で、処理の迅速性を図っていくというフェーズに入っていくのかなというように思いますので、また、トータルとしての期間の既存の遺失物法との均衡も考えてこのような制度設計をしたということでございます。
加えて申しますれば、一度被害者が、これは申し出をすれば被害回復が図れるんじゃないかということで手を挙げたんだけれども、最終的に、何か知らないけれども、調査のときには黙っていた名義人がやおらよっこいしょと手を挙げてきて、いや、やはりあれはおれのものだと言った場合に、金融機関として、こうした手を既に挙げてきた被害者に対して通知を改めて全部出し直さなくちゃいけないという形での混乱ということが見込まれることについても、ぜひ御配慮いただきたいと思います。
以上です。

○小川(友)委員 再度、民主党案に対して質問をさせていただきたいというふうに思います。
預金等に係る債権が消滅していない段階において、被害回復分配金の支払い手続が開始されることになるわけでありますが、口座名義人等の権利行使の届け出があれば、申請人は被害回復分配金の支払いを受けられなくなることになるというふうに思います。
そこでお伺いしますけれども、支払い手続を中途で終了することを認めますと、支払いを受けられなくなるという、申請人の期待を裏切ることになるのではないかなというふうに考えますけれども、その辺はどんな見識がありますでしょうか。

○階議員 支払いの申請をした人の被害回復分配金の受給に対する期待権を害するという御指摘だったと思いますが、この点については、あらかじめ、申請の際に、権利行使の届け出等によって被害回復分配金の支払い手続が終了する場合があり得るという制度の周知を行うことで、支払いの申請をした方の期待権を害しないようにするというふうに考えております。

○小川(友)委員 再度お伺いします。
民主党案では、預金等に係る債権が消滅していない段階において支払いの申請をしなければならないことになるわけでありますね。被害者に対する個別の通知を行うことが、事実上このことによって不可能になるのではないかというふうに考えます。
振り込め詐欺の被害者は、先ほど提案者からもありましたとおり、インターネットを使っている方ばかりではないし、そういうふうなことができない方も多くいらっしゃるわけで、公告を見る方ばかりではないというふうに思います。そして、個別に情報提供がなければ被害者が被害回復を図ることができなくなるというふうに考える部分があるんですけれども、民主党案では、そのことでかえって被害者に保護が図れなくなる可能性があるのではないかなというふうに感じますけれども、その辺の見解があればお伺いしたいと思います。

○階議員 まず、民主党案におきましても、被害者の方などに対して個別通知というものは行います。ただ、先ほどからも御指摘があるとおり、支払い申請と、あと権利の消滅の手続を同時並行で行いますので、個別通知をする段階では、被害者の方が本当に給付を受けられるのかどうかはっきりしないという段階での通知になるということは確かでございます。
ただ、それも、実務的にはそういった条件つきの通知ですよということをしっかりと通知することで、その辺の期待権の侵害であるとか不確定的な給付に当たるということによる不都合は回避できるのではないかというふうに考えております。

○小川(友)委員 もう一点、ちょっとお伺いをしたいんです。
先ほど、提案理由の趣旨説明がありました。先ほどの委員の方からも質問があったわけでありますけれども、要するに、民主党案の第四番の部分なんですが、いわゆる周知規定を明文化していかなくてはいけないという部分ですけれども、いわゆる、ここで、政府が法律や政策の円滑な実施を図るために広報活動を行っていることはこの規定がなくても当然だという与党の説明がありました。なおかつ、趣旨説明の中で、振り込め詐欺については、警察の呼びかけ、マスコミの報道により、国民の意識は高まっているものと思われますと言って、みずからそれを認めているわけですね。
にもかかわらず、与党案にはなかったんだ、必要がないから入れなかったと言っているんですが、どうしてこの余り必要のない部分を明文化してそこに入れたのか、お伺いをします。

○階議員 先ほど与党案の趣旨説明にもありましたとおり、この手続、与党案にしましても、私どもの案にしましても、今まで、かつてなかったような独創的な手続でありまして、この手続を被害者の方にまずよく理解していただく、そして、理解した上で積極的に参加していただく、そのためには、政府による周知広報というものが必要不可欠ではないかと。
確かに、柴山議員もおっしゃったとおり、このような規定がなくても周知広報に努めるというのは政府として当然だというお考えもあるでしょうけれども、やはり、その手続が独創的であり、また被害者の救済を万全にするためにも、手続参加を積極的にしていただくためにも、このような規定をあえて入れさせていただきたいというふうに考えております。

○大口議員 鈴木委員にお答えをさせていただきたいと思います。
これまでの質問でもお答えをさせていただいたと思いますけれども、与党の議員立法の作成におきまして、葉梨委員からも非常に苦労話がありました。裁判所の判断を経由すべきではないか、こういう意見も強かったわけですね。しかし、訴訟費用等の面、また、被害者に過大な負担をかける、こういうことで、何か知恵はないかということで考えたときに、遺失物に関する法律があるということで、ではこれを参考にしましょうと。
遺失物の場合は、大体、紛失する方が一人ですよね。それに対して拾った人が一人。非常に単純なわけでありますけれども、この振り込め詐欺の問題につきましては、たくさんの被害者がいらっしゃる。そういう点でも、手続的には遺失物より複雑ではあるわけです。しかし、非常にこれは参考になる法律ということで、その単純な件であります遺失物法においても、期間を三カ月すなわち九十日としているわけですね。ですから、この九十日というのは、一つ法体系全体の並びで考えますと、非常に参考になる日数であるなと。
そして、預金等債権の消滅手続の公告期間として六十日以上設ける。これにつきましても、先ほども答弁させていただきましたが、口座名義人が振り込み利用犯罪行為と無関係な場合ということを防止するためにも、やはりある程度の期間が必要である。それから、振り込み利用犯罪行為の被害者の財産的被害の迅速な回復を図る必要がある。ということは、余り長過ぎてもいけない。
そういう中で、非訟事件手続法百四十五条に、公示催告について、権利の届け出を催告するための公示催告期間が二カ月を下ってはならない、こういう規定がある。そういうことで、六十日以上ということを第一段階としたわけです。それで、失権手続は六十日。
それから、被害回復分配金の支払い手続につきまして三十日以上と設定したことについては、被害者の申請の機会を十分に確保する、そして、被害者の財産的被害の迅速な回復が必要である。こういう法体系において何かないかというときに非常に参考になるものとして、平成十八年に成立した犯罪被害財産等による被害回復給付金の支給に関する法律、こういうものがあって、犯罪被害財産の支給の申請期間が三十日以上であるということでありますので、こういうことを総合的に考えますと、六十日と三十日で九十日がいいのではないかということで九十日間という公告期間にさせていただいたわけです。
六十日の失権手続におきましても、本当に被害者の方々に対していろいろな形でそういうお知らせもできますし、九十日ということで、複雑な、要するに被害者がたくさんいる中でも、これぐらいの期間は確保しておく必要がある、こういうことでございます。

○階議員 民主党案についてお答えさせていただきます。
委員御指摘のとおり、私どもとしては、合計九十日間という期間は短縮する余地が十分にあるというふうに考えました。と申しますのも、手続を二つの段階に分けた場合はある程度の期間必要になるかと思うんですが、私どもの案は、両手続を一本化して同時並行的に進めます。それでトータルで六十日ということですから、与党案で言う権利消滅手続、支払い手続、この二つを六十日間で全部やってしまうということですから、もし仮にこれを二段階になぞらえてみれば、合計百二十日間の期間を確保しているわけでございます。
そういった意味で、期間を全体で短縮しつつ、かつ各当事者の手続の参加の保障を十分にしているということでございますので、私どもの方が、期間を短くし、かつ手続参加の保障をしているという点で、よりいい案ではないかというふうに考えております。

○鈴木(克)委員 私も、なるべく短い、九十日を六十日ということであるならば、その方がさらに法案としてはいいのではないのかなと個人的には考えております。
続いてお伺いをしてまいりますけれども、民主党案では、金融機関の立証責任を預金保険機構側に置いて、金融機関の手続に過失があったことを証明しなければならないということになっておるわけでありますが、この点について民主党側から説明をしていただきたいと思います。
〔委員長退席、後藤田委員長代理着席〕

○階議員 与党案では無過失の立証責任を金融機関が負うということでございますが、一般論として、無過失の証明というのは、ないことの証明というものでございまして、司法の世界においては、これは悪魔の証明とか言われて、非常に困難であるという議論があるわけでございます。ないことを証明するよりも、あることを証明する方が簡単なわけでございます。
ですから、この場合ですと、過失がないということを金融機関が証明するのではなくて、相手側である預金保険機構に、過失があるということを証明させた方が、より立証責任の分担としては公平であろう。
ただし、そういうことになりますと、預金保険機構の側では、手持ちの証拠がなくてどうやって過失があることを証明するんだという問題があることは、先ほど与党側の委員からも御指摘があったとおりでございます。私どもの案としては、金融機関の方で所定の書類を添えて預金保険機構に対して支払いの請求をする、その書類などによって、預金保険機構の側で、金融機関に手続について過失があるというふうに認めるのであれば、その段階で、過失があるとして支払いを拒絶する、そういうたてつけにしたものでございます。

○鈴木(克)委員 無過失の証明は悪魔の証明だというのを私も教えていただいて、いい勉強になりました。そういうことを聞きますと、立証責任は、金融機関側ではなくて預金保険機構側に持たせる方がいいのではないのかなというふうに私は感ずるわけでございます。
三点目ですけれども、本制度の周知広報についてお伺いをしていきますが、金融機関から連絡がつかない被害者等は本制度を知らないままでいる可能性もあるわけであります。したがって、本制度についての広報を政府が行うことが必要だというふうに考えるわけでありますけれども、これについては民主党側はどのように考えてみえるのか、御答弁をお願いします。

○階議員 委員御指摘のとおりでございまして、被害者の側でこの手続の存在を知ることができなければ、被害者救済というこの法律の意義は著しく損なわれることになります。
そこで、私どもとしましては、この制度は全くオリジナルな制度であるというふうに、先ほど、与党案、葉梨議員の方からも御説明ありましたとおり、全くオリジナルで、前例がないものですから、徹底的に周知広報を図り、被害者によく理解、御認識いただいて、そして積極的に参加していただく。そういった意味で、周知広報というのは必要不可欠ではないのかというふうに考えております。

○葉梨議員 ほとんどが詐欺であることは間違いございません。先ほど刑事局長の答弁にもありましたとおり、振り込め詐欺の態様というのは非常に多くのものがある。
詐欺以外で何だという御質問だと思いますけれども、刑法犯として典型的なものは恐喝がございます。恐喝で振り込ませる。それから、あと特別法犯の場合がございまして、例えば、やみ金融などで預金口座への振り込みが利用されるといったような、経済犯といいますか、特別法犯ですね、こういったものがこの対象となってくるわけです。
いずれにいたしましても、刑法、特別刑法の中であっても財産犯である、それから振り込みが利用されているというこの二つの要件を我々は考えております。

○佐々木(憲)委員 振り込め詐欺というような犯罪の場合は、利得を確保するために、入金されたらすぐ引き出してしまうというのが通例ですね。そこで問題は、一番最初の段階が大変重要でありまして、残っていなければ配分もできませんからね。ですから、最初の、犯罪利用預金口座の疑いのある口座に「取引の停止等の措置を適切に講ずる」判断基準、ここが大変大事だというふうに思います。
そこで、両提案者が想定している要件は、「捜査機関等から当該預金口座等の不正な利用に関する情報の提供があること」と「その他の事情を勘案して犯罪利用預金口座等である疑いがある」こういうふうになっておりますが、捜査機関等からの情報の提供、これは従来の我々の体験からいうと、偽造・盗難カードの被害あるいはやみ金被害、こういう場合は、警察に言ってもなかなかすぐ対応してくれないということで、なかなか警察自体が犯罪行為と認めないということが多いんです。捜査機関からの情報提供というふうになりますと、認定する手続に非常に時間がかかり過ぎまして、結局のところ救済に役立たない、こうなってしまいます。
例えば、これは日弁連等が提案しているんですけれども、捜査機関の情報提供以外にも、例えば、本人確認がなされた被害者が被害の具体的事情を申告し、凍結等の要請をしたとき、その他これに準ずる事情、そういう場合も取引停止というようなことをやるべきではないか、こういう提案をされているんです。
こういう立場は、私はなるほどと思いまして、迅速な預金口座の凍結を行う上でこれは効果があると思いますが、この点、民主党の提案者はどのようにお考えか、お聞きをしたいと思います。

○階議員 委員御指摘のとおりでございまして、まず口座凍結をしないことには被害回復はままならない、そのためには口座凍結を速やかにする必要があるということで、おっしゃるとおり、捜査機関の情報提供をまつまでもなく、信頼できる形での情報提供があれば「捜査機関等」の「等」に当たるということで、口座凍結はすべきだというふうに考えております。
また、この点については、全銀協等の業界団体で、実務を踏まえた上でガイドラインなどの形で統一的な基準が定められるものというふうに伺っております。この点については、実は私も、金融機関に勤めていた時代も、捜査機関の情報提供がなくても、弁護士さんからそういうような情報提供があったり、また、被害者の方とよく面談して、信用性があるというふうに判断した場合には、実務上、口座凍結をしておりました。
そういった形で今度のガイドラインも定められるものというふうに考えておりますので、御懸念の点は大丈夫かと思います。

○佐々木(憲)委員 同じケースで、これは民主党にお聞きしますけれども、いわば最後の被害者Aさんが被害と気がつかないという場合がある。その場合、前の九人に対して配分される。そうすると残らないわけですね。しかし、後で、一定期間たった後、Aさんが被害に気づいて被害回復分配金の支払いを請求してきた。しかし、もうないよということで払われない。これは何らかの措置が必要ではないかと思いますが、民主党はどのようにお考えでしょう。
〔委員長退席、後藤田委員長代理着席〕

○階議員 委員御指摘のとおりでございますが、その点については、被害者がこの手続に漏れなく参加できるように、政府として周知広報の規定をまず設けました。
また、多分に理念的ではございますけれども、仮に被害者がこの手続で救済を受けられなかった場合でも、民事上の加害者に対する損害賠償請求とか不当利得に基づく返還請求といったことで被害回復をする余地は残っているということを申し添えておきます。