「社会保障と税の一体改革に関する三党実務者間合意」(修正合意)の問題点について下記のとおりまとめました。本日、通常国会の会期が79日間延長されました。延長するのであれば、修正合意の問題点を放置することなく、自・公両党に対し、再協議を求めるべきです。

修正合意の問題点

衆議院議員 階  猛

Ⅰ.「税関係協議結果」について

税関係協議結果

①   「第4条(所得税)について」関連

・「削除する」とあるが、消費税増税だけなら「税制抜本改革」とは言えない。

・「累進性の強化に係る具体的な措置について検討し、その結果に基づき平成25年度改正において必要な措置を講ずる」とあるが、平成21年の所得税法改正附則104条において、「消費税を含む税制の抜本的な改革を行うため、平成23年度までに必要な法制上の措置を講ずる」とあることと矛盾。

・大綱35頁の(2)、「今回、特に高い所得階層に絞って、格差の是正及び所得再分配機能の回復を図る観点から、一定の負担増を求めることとする」に明らかに抵触。

②   「第5条、第6条(資産課税)について」関連

・「削除する」とあるが、消費税増税だけなら「税制抜本改革」とは言えない。

・「相続税の課税ベース、・・・について検討し、その結果に基づき平成25年度改正において必要な措置を講ずる」とあるが、平成21年の所得税法改正附則104条において、「消費税を含む税制の抜本的な改革を行うため、平成23年度までに必要な法制上の措置を講ずる」とあることと矛盾。

・相続税関連の改正については、平成23年度税制改正案において同趣旨の改正が野党の反対で見送られた経緯がある。先送りしても成立する目途は立たない。

・上記の経緯を踏まえた大綱38頁6行目、「本改正事項については、課税ベースや税率構造の見直しなど、全体として資産課税の抜本改革を行うものであることから、今般の一体改革の中で、その実現を図る」に明らかに抵触。

③   「第7条(消費税率引上げに当たっての検討課題等)について」関連

・「給付付き税額控除等の施策の導入」を「総合的に検討する」こととされており、導入されるかどうか明らかでない。これは、大綱32頁下から12行目、「総合合算制度や給付付き税額控除等、再分配に関する総合的な施策を導入する」に明らかに抵触。

・「複数税率の導入」を「総合的に検討する」こととされており、導入の余地を残している。これは、大綱32頁上から10行目、「今回の改革については単一税率を維持することとする」に明らかに抵触。

・「扶養控除、成年扶養控除、配偶者控除に関する規定を削除」とあるが、所得控除よりも税額控除、税額控除よりも給付付き税額控除ないし手当てが望ましいという民主党の税制に対する基本的な姿勢を否定するものであり、容認できない。

・「年金保険料の徴収体制強化等について、歳入庁その他の方策の有効性、課題等を幅広い観点から検討し、実施する」とあるが、歳入庁の設置が確実に行われるかどうか明らかでなく、また、仮に設置されたとしても、年金保険料の徴収体制強化等のための位置付けに矮小化されているため、民主党の考え方と相容れない。

④   「附則第18条について」関連

・「第1項の数値は、政策努力の目標を示す」とあるが、努力すれば数値の如何を問わず消費増税実施が可能ということであれば、同項の冒頭に「消費税率の引上げに当たっては、経済状況を好転させることを条件として実施する」とあることと矛盾し、容認できない。

・「消費税率(国・地方)の引上げの実施は、その時の政権が判断する」とあるが、実施時期である再来年4月の前に総選挙が行われる以上、現内閣が消費増税の法案を成立させても、次期総選挙で国民の信を得られない限り無意味なものとなる。次期総選挙で国民の信を得られる見通しがない段階で消費増税法案の成立を急ぐ必要はない。

・第2項として「成長戦略や事前防災及び減災等に資する分野に重点的に資金を配分する」とあるが、そのための原資はどのように捻出するのか、またこれを行う場合に基礎的財政収支の動向はどうなるのか。

⑤   「その他」関連

・「『により支え合う社会を回復すること』」を削除する」とあるが、大綱26頁では、税制抜本改革が必要となる最初の理由として、「「支え合う社会」の回復」が挙げられている。これを削除するのであれば、消費増税の大義名分を欠くことになり、理念なき増税のそしりを免れない。

Ⅱ.社会保障・税一体改革に関する確認書(社会保障部分)について

(社会保障部分)確認書

①   「社会保障制度改革推進法案について」関連

・「三 改革の実施及び目標時期」において、社会保障制度改革を行うための必要な法制上の措置は、社会保障制度国民会議の審議の結果等を踏まえて実施する旨記載されている。これは、後期高齢者医療制度の廃止は今通常国会、新しい年金制度については平成25年の国会に法案を提出することが大綱に明記されていることと、明らかに抵触。

・「八 社会保障制度改革国民会議」において、同会議では、「大綱その他の既往の方針のみにかかわらず幅広い観点に立って、…社会保障制度改革を行うために必要な事項を審議する」とあるが、大綱に示された政府与党の方針も変更されうることを示唆しており、容認できない。

②   「社会保障改革関連5法案について」関連

(※子育て関連3法案の検討は省略)

・低所得高齢者・障害者等への年金額加算の規定を削除し、かつ、高所得者の年金額調整の規定は削除することとされているが、公的年金の国費部分の再分配機能を強化して高齢者間の格差是正を図るという大綱17、18頁の施策を無にするものであり、容認できない。

・「増加する消費税収を活用して、新たな低所得高齢者・障害者等への福祉的な給付措置を講ずる」とあるが、消費増収分を福祉目的に使うことは、「国分の消費税収は高齢者3経費に充当されてきた経緯等を踏まえる」(税関係協議結果の「その他」参照)とされていることと矛盾。

・「短時間労働者の社会保険適用拡大」について、「施行後3年までに適用範囲を拡大する」という方針が、変更されている。これは、多様な働き方を支える社会保障制度を構築するという大綱の理念に抵触。

Ⅲ.確認書について

三党実務者確認書

・「今後の公的年金制度、今後の高齢者医療制度にかかる改革については、あらかじめその内容等について三党間で合意に向けて協議する」とあるが、これでは、民主党政権のマニフェストの柱である新年金制度や後期高齢者医療制度の廃止について自民、公明両党が協議に応じない限り法案すら提出できないことになってしまう。マニフェストの「先送り」、「棚上げ」というより、「自殺」と言わざるを得ない。

・「交付国債関連の規定は削除する」とあるが、ならばどのように基礎年金国庫負担の財源をねん出するのか。赤字国債を発行すれば、予算フレームで定めた赤字国債の発行上限を破ることになる。財政再建を重視して2、3年先の消費増税を急ぎながら、今年の財政再建をないがしろにするのは矛盾であり、これこそ金融市場の信認を損なうのではないか。

 以上