8、10、11日、衆議院では、「社会保障と税の一体改革」に関する7法案の代表質問が合計約10時間にわたって行われました。その間の9日には無罪判決を得た小沢さんに対し控訴を表明する指定弁護士の記者会見が行われました。

これらの質疑応答のうち、ニュースで取り上げられるのは主に答える側の発言、しかも中身のある発言というより、絵になる印象的な発言が中心です。一方、質問する側の発言は、通常は答える側とセットでしか取り上げられないため、おかしな質問をしたり、質問すべきことを質問していなかったりしても、批判の対象となることはほとんどありません。

しかし、言うまでもないことですが、国会議員やマスコミは、個人的な趣味嗜好で質問するわけではありません。国民の代表として、国民の知る権利に奉仕するために、重要人物に直接質問することが許されているのです。「国民の代表」に値する質問なのか、「知る権利」に奉仕する質問なのか、厳しくチェックされなくてはなりません。

衆議院の代表質問では、特に民主党の長妻昭代議士の質問が、国民の「知る権利」に奉仕する内容だったと思います。①賃金の低迷により見込みどおりの年金保険料収入が入らなかったため、国民年金や厚生年金の積立金の取り崩しが予想を上回るペースで進み、その額は平成21年度で2.6兆、平成22年度で2.4兆にものぼることや、②政権交代以後、事業仕分け等で確保した恒久財源が今年度予算で7.7兆円に達したことなどが明らかになりました。

中には、ねじれ国会では無視できない野党の要求を与党が取り入れ、野党も納得した政策にもかかわらず、「民主党がマニフェストをほごにした」と野田総理に謝罪を求めるなど、首をかしげざるを得ない野党質問もありましたが、与野党を通じて的確な質問が多かったと思います。

これに対し、指定弁護士の控訴表明に対するマスコミの質問は、国民の「知る権利」に奉仕するとは到底言えないものでした。指定弁護士は、無罪判決を受け入れずに控訴した理由として「看過しがたい事実誤認」があったからだと答えましたが、法律上、控訴するためには、単なる事実誤認ではなく判決に影響を及ぼす事実誤認であることが必要です。ところがマスコミは、どのような「事実誤認」なのか質問せずに終わっています。

さらに重大なことは、裁判所が認めなかった小沢さんの虚偽記載は控訴で争いながら、裁判所が認めた検察の虚偽記載は何ら問題視しない指定弁護士の偏った態度について、どのマスコミも追及しなかったことです。この記者会見は、国会と違ってテレビ中継や議事録はありません。国民はマスコミを通じてしか情報を得る術がないのに、マスコミが国民の知る権利に奉仕していないことこそ、「看過しがたい事実」に当たります。