通常国会がスタートした20日、安倍首相は、施政方針演説の冒頭で「あきらめの壁は、完全に打ち破ることができた」と自信満々に語りました。「あきらめの壁」とは、第二次安倍政権の発足した時点で、国民の間に「日本はもう成長しない」という固定観念が染みついていたことを指すようです。

国民にそのような「あきらめの壁」があったとも思えませんが、仮にあったとすれば、その壁は全体が打ち破られたというより、一部の人だけが通れるようになっただけではないでしょうか。日銀の異次元の金融緩和は、円安株高で一部の大企業と富裕層に恩恵をもたらしましたが、多くの労働者は物価上昇や消費増税に見合うほど賃金が上がらず、格差拡大によって首都圏への一極集中が加速しています。

政権の周辺にいる人も「壁」がなくなり、利益を得ました。例えば、国有地の売却や獣医学部の新設、そして桜を見る会への招待を受けたのは首相夫妻の友人や支援者です。「安倍・麻生道路」の予算付けを忖度したと発言して辞任した副大臣もいました。全国で最大3か所とされるカジノの立地先に選ばれようと、事業者が与党政治家に金品をばらまいた疑惑も広がっています。首相の言う「あきらめの壁」は、いびつな形で残っています。

もう一つ、安倍政権が築いてきた「あきらめの壁」があります。それは、「どうせ政治は変わらない」という「壁」です。国政に問題が生じた場合、以前なら野党が要求すれば当然行われた国会審議が行われなくなりました。ようやく審議が行われても政府側はまともに答弁せず、都合の悪い資料は出しません。これに抗議する質疑者との間で押し問答を繰り返すうちに審議時間が終わってしまいます。

そして官僚の忖度による公文書改ざんや虚偽答弁、資質を欠く閣僚による不適切発言や政治とカネの問題が発覚しても、安倍首相は任命責任、監督責任が自分にあることを認めつつ、それを果たすことなどありません。この状況が長く続いたことで、国民の間に「どうせ政治は変わらない」という「あきらめの壁」ができ、政治への関心が低下しています。この「壁」を壊すには、一刻も早く野党が協力して政権交代の受け皿を作らなくてはなりません。

昨年暮れ以来の立憲民主党と国民民主党の合流協議がまとまらず、当面は別々の党で活動することになりました。立憲民主党が示した合流案を国民民主党が飲めなかったとのことですが、最も肝心な合流後の理念や政策の面では、国民民主党の主張がおおむね反映されているようです。合流問題がくすぶっている限り、「あきらめの壁」は壊せません。この問題を早く決着させるにはどうしたらよいかを考え、精力的に活動していきたいと思います。