「依らしめて知らしめざるを好しとする人の招ける今日の国難」

これは今の政治状況を詠んだものではありません。「憲政の神様」と言われ、第一回の衆議院議員選挙から連続25回当選、議員在職60年7か月の最長記録を持つ「尾崎行雄」が、太平洋戦争が始まった昭和16年に詠んだ短歌です。

国民に対して説明責任を果たさず、必要な情報を知らしめずに国民を従わせた人たちによって、日本は米国との無謀な戦争に突入していきました。その経験も踏まえて、権力の暴走を防ぎ、正すため、国会には行政監視機能が与えられています。これに応じて政治家や官僚は説明責任を果たし、行政情報を公開しなくてはなりません(憲法62、63条)。

しかし、政府与党は、9日、野党の会期延長の求めを無視し、国会の行政監視機能を果たさせないまま、臨時国会を閉会しました。会期中、政府主催の「桜を見る会」の私物化疑惑につき、「招待者の取りまとめなどには関与していない」という安倍首相の答弁が嘘だったことが発覚。その後、野党の再三の要求にもかかわらず、衆議院では一度も答弁していません。

また、「桜を見る会」の招待者名簿は、総務省や文科省では保存期間が10年となっています。しかし、首相の招待者が記載された内閣官房の名簿はなぜか1年以内に廃棄するものとされ、国会議員が要求した1時間後にシュレッダーにかけられました。おまけに、その時点で残っていたバックアップデータも公文書にあたらないとして公開しませんでした。

そもそも国会で首相が嘘の答弁をすること自体、言語道断です。その責任を免れるために国会での説明から逃げ回ったり、情報を隠したりするのでは、国会の行政監視機能が成り立ちません。森友問題でも、首相の嘘をごまかすために公文書が改ざんされ、真実を知る官僚が雲隠れしました。その反省もなく、同じことが繰り返されています。

今国会で安倍首相の通算在任期間が桂太郎首相を抜き憲政史上最長となりましたが、この間、安倍政権は国民を「依らしめる」ことにこだわり、国民に「知らしめる」ことを軽んじてきました。権力の行使を憲法によって制限する「憲政」そのものが危機に瀕しています。

尾崎行雄は、「憲政擁護運動」の中心人物でもありました。権力を自分の都合のいいように行使していた桂首相を厳しく非難する演説を国会で行い、これがきっかけとなって桂内閣が総辞職したことでも知られています。大正2年のことです。これ以上の「国難」を避けるため、令和2年を再び「憲政擁護運動」の年にしなくてはなりません。