3日、金融庁が公表した「高齢社会における資産形成・管理」という報告書が問題となっています。夫が65歳以上、妻が60歳以上の夫婦のみの無職世帯を平均すれば、毎月の赤字額が約5万円だというのです。そしてこの状態が30年続けば約2000万円不足するとして、①若い時からお金を蓄え、②定年後もなるべく長く働き、③働けなくなったら倹約し、貯めたお金を長持ちさせましょう、と言っています。これでは、「人生100年時代」はお金の不安におびえるだけです。「100年安心」どころではありません。

そもそも老後に備えて20歳の時から公的年金の保険料を払っているのに、それに加えて2000万円も貯蓄できる人は少ないと思います。ただ、「人生80年」と言われた時代に比べて老後に必要なお金が増えるのは事実です。小泉政権下で、現役世代の減少率と平均余命の伸びに応じて年金の給付額を抑える「マクロ経済スライド」も導入されています。「老後2000万円不足」は、真剣に考えなくてはいけない問題です。

この問題について、私は、この3月に井手英策慶応大教授をはじめ親しい国会議員らで著した本「リベラルは死なない-将来不安を解決する設計図」(朝日新書)の中で解決策を示しました。無理にお金を貯めるのではなく、持ち家を担保にして金融機関からお金を借り、しかも借入金は2か月に1度年金を補う形で受け取り、返済は亡くなった後に金融機関が担保の家を売却して得た資金を充てる、という「リバース・モーゲージ」という金融手法を活用すべき、と提案しています。

この方法を取れば、家主が亡き後、相続人がいなかったり、相続人がいても利用されなかったりした場合に、空き家が増えることも防げます。さらに言えば、「人生100年時代」には「お金の不安」だけでなく「孤独の不安」も高まります。配偶者と離別ないし死別して子や孫と同居していない人や、そもそも結婚しなかった人など、一人で暮らす高齢者が増えるからです。こうした方々が隣近所に住む場合は、一か所の家に集住して「リバース・モーゲージ」を利用し、集住で余った家はリフォームして子育て世帯などに売却して住んでもらえば「孤独の不安」も解消されます。私の提案は、「一石三鳥」を狙っています。

現在、「リバース・モーゲージ」の需要は5兆円程度あると言われています。しかし、実際に行われた融資は、まだ1千億円程度です。リバース・モーゲージを実行すると、金融機関の側に、担保不動産の価値が下がって貸付金を回収できなくなるなどのリスクが生じるからです。そのようなリスクに備える保険制度を設ければ、もっと普及は進むはずです。米国には既にそのような制度があります。金融庁は、国民の不安をあおる前に、国民の安心を広げる政策を実行するべきです。