平成最後の年末となりました。除夜の鐘にはまだ早いですが、このところ連日「ゴーン」、「ゴーン」の音が世間に響き渡っています。いうまでもなく、日産自動車のカリスマ経営者だったカルロス・ゴーン氏が、東京地検特捜部により既に3度も逮捕、勾留されたからです。

①一度目の逮捕、勾留(11/19~継続中)は、日産の有価証券報告書にうその記載をして提出した罪の容疑です。平成27年分までの5期にわたり、自身の報酬金額を実際より合計50億円も少なく記載したというものです。この罪については10日に東京地裁に起訴されています。

②二度目(12/10~20)も同じ罪の容疑ですが、時期は平成28年分以降の3期分で金額は40億円です。この罪について特捜部は勾留を10日間延長しようとしましたが、東京地裁はこれを認めませんでした。

③三度目(12/21~現時点では来年1/1まで)は、自身の個人的な金融取引で被った損失約18.5億円を日産に付け替えたことなどに関する特別背任の罪の容疑です。

起訴前の勾留に保釈はありません。起訴後も勾留が続けば、被告人は「保釈」を申請して身柄の解放を求めることができます。ゴーン氏は、②で勾留延長が却下された20日時点では、勾留は起訴された①だけとなり、保釈の申請ができる状況でした。しかし、その直後に③の逮捕・勾留が行われたため、当分は保釈の申請ができなくなりました。

長期にわたり身柄を拘束して自白を得ようとする捜査のやり方は、以前からえん罪の温床となってきました。また、①、②で問題となった報酬については、実際に支払われておらず将来支払われる予定だったという指摘もあり、うその記載をしたと言えるかは微妙です。

さらに、③で問題となった金融取引は、私が以前勤務していた新生銀行との間で行われたものです。報道によれば、ゴーン氏は取調べで、取引で発生した損失を日産に付け替えたことを認めたとのことですが、付替えをするには取引相手である新生銀行の承諾が必要です。安易に付替えに応じれば共犯とされる危険があるので、新生銀行は、ゴーン氏が特別背任の罪にあたらないことを確認した上で付替えに応じたという可能性も十分にあります。

しかし、まだ真相は分かりません。仮に一連の容疑が事実だとしたら、ゴーン氏は社内の絶対的権力者という立場を利用し、「濡れ手に粟」の利益をほしいままにしたものであり、厳しく制裁されるべきです。一方、特捜部の強権的な捜査手法などを見る限り、「濡れ衣」の可能性も否定できません。二つの強大な権力者のどちらが暴走しているのか。先入観と煩悩を振り払い、注視する必要があります。