本年7月31日、衆議院議長から国会議員と行政府に向けた異例の談話が発表されました。前国会では「法律の制定や行政監視における立法府の判断を誤らせるおそれのあるもの」や「行政執行の公正さを問われた諸々の事案」など、「民主的な行政監視、国民の負託を受けた行政執行といった点から、民主主義の根幹を揺るがす問題」が生じたとし、行政府と立法府に対し、深刻な自省と改善を求める内容です。

しかしながら、政府と与党は「自省と改善」に取り組むどころか、入管法改正案の審議において、法案の内容、法案審査に必要な資料、法案審査の手続きのそれぞれの面で、更に大きな「民主主義の根幹を揺るがす問題」を生じさせています。

法案の内容では、「特定技能」資格を得るために必要な能力の水準、受入れが認められる業種と人数、外国人の処遇水準などが条文に書かれていません。法務委員会の与党責任者である平沢代議士ですら、私とのテレビ討論で、本法案が「準備不足」だと認めていました。こうした内容不十分な法案を政府が国会に提出することは、国会を冒涜しています。

法案審査に必要な資料では、度重なる交渉により、失踪した技能実習生2800名からの聴取票の一部議員への開示が認められた途端、法務省は技能実習生の実態をまとめた資料に誤りがあることを認めました。さらに、その後訂正された資料についても法務大臣は再修正を検討しています。前国会では、財務省の文書改ざん、厚労省の不適切なデータ、防衛省のずさんな文書管理が問題となったのに、何ら改善が見られません。

法案の内容の根幹に不備があり、審査に必要な資料も未確定である以上、本来なら法務委員会で審議できる状況ではありません。しかしながら、昨今の全国的に深刻な人手不足と国民の関心の高さを考慮して、国民民主党をはじめ野党側は週に3日の法務委員会の定例日の審議に積極的に応じ、建設的な議論を行うよう努めてきました。

にもかかわらず、与党は定例日以外にも立て続けに委員会を開催しようとし、野党だけでなく官僚も徹夜を余儀なくされるなど各方面に無理を強い、悪影響を及ぼしています。自民党の国対委員長は、法案の27日の衆院通過を目指すと発言したそうですが、審議の内容、方法を問わず短期間で審議を終わらせるという姿勢は国会をないがしろにしています。

立法府の長である衆議院議長の異例の談話がこのまま政府と与党によって無視されるようであれば、国会の権威は地に落ち、国民の国政への信頼は修復不可能となります。今週は衆議院議長の覚悟が問われる局面がありそうです。