7日に行われた加計学園の加計孝太郎理事長の記者会見で、耳を疑うような発言がありました。安倍首相が自身との面談の際に獣医学部新設を「いいね」と言ったことなどはなかったとし、愛媛県側にそうした事実があったかのように伝えたことは、部下である渡辺良人事務局長が「勇み足」でやったことだと語ったのです。

「勇み足」のもともとの意味は、相撲で相手を土俵際まで押し込みながら勢い余って自分の足が先に出て負けることです。このことから、「やり過ぎて失敗する」の意味でもこの言葉を使います。補助金をだまし取るために虚偽の事実を伝えることは詐欺行為であって、「やり過ぎ」ではなく「やってはならないこと」です。「勇み足」では済まされません。むしろ記者の質問にまともに答えられない加計理事長の姿を見た大半の人は、嘘をついているのは事務局長ではなく理事長だと思ったことでしょう。

さて、加計学園問題のもう一方の当事者である安倍首相は、消費増税の時期を2回にわたって延期してきましたが、15日に臨時閣議を開き、来年10月に消費税率を10%に引き上げることを確定(させたように見えます)。同時に消費増税後の経済の落ち込みを防ぐため、様々な経済対策を行うことも決めました。

そもそもオリンピック予算の水膨れなど放漫財政で財政再建目標を5年も先送りし、率先して身を切るはずの国会議員の定数を増やした政権に増税を語る資格があるのか疑問です。それに加えて、「経済対策」と称し、富裕層も含めて飲食料品や新聞の税率を8%に据え置くことで税収を約1兆円も減らし、中小零細企業の会計処理を煩雑にする「軽減税率」や、税率10%の商品でもカードを使えば一定期間は2%分をポイントで還元したり、「国土強靭化」のための公共事業をこの時とばかりに集中実施したりするのは、やり過ぎです。

消費税を2%上げて国民に5.6兆円もの追加負担をお願いする本来の目的は、高齢化が進んでも社会保障を揺るぎないものにするため、必要財源を確保することにありました。もちろん所得の低い方々の負担を減らしたり、景気の落ち込みを防いだりすることもセットで行う必要がありますが、これをやり過ぎると本来の目的に使う財源が足りなくなってしまいます。今回は「やり過ぎて失敗する」見本のようなものであり、これこそ「勇み足」です。

そして、増税の1年前にこれほどの経済対策を打ち出した意味も考えるべきです。増税までの間に、統一地方選挙と参議院選挙が予定されています。安倍首相は、消費増税を口実にして有権者向けのバラマキ予算を組みたかったのではないでしょうか。消費増税にかこつけた今回の対策は、経済対策としては「勇み足」であり、選挙対策としては「忍び足」です。