9月29日は、盛岡出身の「平民宰相」原敬が総理大臣に就任してちょうど100年の記念すべき日でした。原敬総理は、「人に尽くして見返りを求めず」という意味を持つ「宝積(ほうじゃく)」という言葉を座右の銘にしていました。

日本初の政党内閣を率い、内政面でも外交面でも卓越した手腕を発揮した原敬総理は、郷土の偉人というだけでなく日本の政治史に残る大偉人です。今も自民党の幹事長室には、原敬総理直筆の「宝積」の扁額が飾られているそうです。

安倍首相も幾度となく目にしているはずですが、最近の外交姿勢を見ていると「宝積」の意味を正しく理解しているのか疑問に感じます。9月12日に行われた日露首脳会談の際には、「(北方領土問題解決など)前提条件なしで年内に日本と平和条約を締結したい」とプーチン大統領が突然言い出したのに対し、何も反論できず笑っているだけ。

先日の日米首脳会談では、これまでの経緯を無視して日本車への輸入関税を大幅に引き上げようとするトランプ大統領の脅しに屈し、多国間で交渉したTPPよりも米国の要求が通りやすい2国間の通商協定(通常はFTAと呼びますが、日本側はTAGという新語を作って実態をごまかそうとしています)を結ぶ交渉に入ることになりました。

日本にとって聖域である農産品の貿易につき、米国はTPPで合意した水準を尊重するとしましたが、本当にその気ならTPPに加盟すれば済むはず。そもそもTPP自体、日本の一次産業が安価な輸入品との競争にさらされる厳しい内容ですが、米国が韓国と結んだFTAの内容などを見ると、さらなる市場開放を迫られる危険は十分にあります。

また、トランプ大統領は日本に対する貿易赤字が700億ドル(7兆円強)に上ることを問題にしていますが、米国の人口は日本の人口の2倍以上あります。国民一人当たりの輸入金額に直すと日本と米国でほとんど差はなく、日米貿易に不均衡はないとも言えます。安倍首相は、トランプ大統領の自動車に関する言い分を聞き入れるだけでなく、見返りとして日本の一次産業を守るための要求を突きつけるべきです。

安倍首相は、国会を休んで頻繁に海外に出向いてはお金をばらまき、秋田犬を贈ったり、日本を代表するプロゴルファーをゴルフ接待に同伴させたり、外国に尽くすことには余念がありません。しかし、ロシアにしても米国にしても、尽くす見返りはあるのでしょうか。「国民に尽くして見返りを求めず」が本来の「宝積」の精神のはずです。安倍政権の外交姿勢を見ていると、「外国に尽くして見返りを求めず」と曲解しているふしがあります。