「夏の全国高校野球」が5日から甲子園球場で始まりました。今年は第100回の記念大会です。また、3年生の選手にとっては最後の大会であり、その多くは初めて出場する大会でもあります。岩手の花巻東など全国56代表と大観衆が集った壮観な開会式を見ていると、高校入学から甲子園にたどり着くまでの2年4か月間、真摯な努力を積み重ねてきた選手たちの「本気」さや、同じように努力しつつも予選で敗れた選手たちの「無念」さに、自然と思いが至ります。

私は甲子園にたどり着けなかった方の球児でしたが、目標を達成するための「本気」の努力や、努力が実らなかった時の「無念」に耐えることが、その後の人生にどれだけ役に立ったか分かりません。こうした「本気」と「無念」を若いうちに経験することが、高校野球に限らず学生スポーツの本質であり、魅力なのかもしれません。

さて、日本銀行の黒田東彦総裁は、果たして「本気」や「無念」を味わったことがあるのでしょうか。黒田総裁は就任直後の2013年4月に「2%」の物価安定目標を「2年程度」で実現すると表明しました。日銀がいまだかつて掲げたことのない野心的な目標であり、2年という期限を区切ったのも斬新でした。何よりも驚いたのは、「異次元の金融緩和」と称して民間金融機関から大量に国債を買ったり、株や不動産の投資信託を市場から買ったり、短期金利をマイナスにしたりしたことです。

それだけ「本気」で目標を達成したかったということなのでしょうが、結局物価は上がらず、目標を掲げてから3年半経った2016年9月に長期金利をゼロにしました。それから約2年。「異次元の金融緩和」による超低金利で約半数の地域金融機関の本業が赤字となり、将来不安から個人消費も低迷して物価は1%にも達していません。

ようやく7月31日、日本銀行は、2021年3月末でも物価は目標の2%に達しないという見通しを示すとともに、金融政策を変更して国債や投資信託の買い入れ額や、長期金利ゼロを「変動しうる」ものにしました。要は、いつまで経っても目標に届かないので「本気」の努力はやめたということです。黒田総裁はさぞかし「無念」なのだろうと思いきや、「これまでの金融政策が間違いだとは全く思っていない」旨、記者会見で語っていました。

黒田総裁が高校野球と同じく約2年での目標達成を目指し、「本気」で取り組んだことは認めます。しかしながら、8年後でも目標達成が見通せないとして「本気」の努力をやめ、失敗を「無念」と感じて反省するどころか開き直る態度は、中央銀行総裁として恥ずべきことです。「負けたら終わり」の高校球児を見習うべきではないでしょうか。