現政権を将棋の駒にたとえるなら、安倍首相が「王将」、麻生副総理兼財務大臣は「飛車」と言えるでしょう。この5年あまり、本会議でも予算委員会でも「王将」のそばには常に「飛車」の姿がありました。私たち野党の追及の一手一手に対し、無関係な答弁をして時間切れをねらったり、質問者を挑発して論点をずらしたりして、「王将」を守り盤石の体制を築いてきました。

しかし、この半月で局面は急展開しました。2日に森友学園との国有地取引に関する決裁文書の改ざん疑惑が発覚した後、5日に国交省から官邸に改ざん前の文書の報告があったにもかかわらず、財務省は国会に改ざん後の文書しか提出しませんでした。

文書作成に関わった財務省の職員が自殺し、当時の財務省理財局長だった佐川国税庁長官が辞任した後の12日になって、ようやく14件の決裁文書に約300か所の改ざんがあったことを認めましたが、麻生大臣は「理財局の一部の職員により行われた」「佐川氏の答弁に合わせて書き換えた」と部下に責任を押し付けています。しかしながら、決裁文書の改ざんは最高で10年の懲役刑の可能性があることは財務省の職員も当然分かっています。

仮に佐川氏から命じられたとしても、職員にそのような重い罪を犯すメリットはありません。むしろ改ざんで消された記述には、「(昭恵)夫人からは『いい土地ですから、前に進めてください。』との言葉を頂いた」という籠池氏の発言など、首相夫人に関するものが5か所もあります。

これが表沙汰になれば、「私や妻が(森友への国有地売却に)関係していたなら、間違いなく総理も国会議員も辞める」との昨年2月17日の安倍首相の答弁によって、首相が退陣に追い込まれかねません。このことが前代未聞の決裁書改ざん事件と深く関わっているであろうことは誰しも容易に想像できます。

今後の国会審議では「決裁書改ざんの動機が何だったのか」が焦点になります。もし安倍首相の答弁が改ざんの動機になっていれば、安倍首相は夫人が国有地取引に関わっていたということだけでなく、事実に反する文書が国会に提出され、国会審議を無意味にした責任や解散総選挙で国民の判断を歪めた責任は免れず、総理大臣を退くしかないと思います。

百歩譲って、佐川氏の答弁が改ざんの動機になっていたとしても、財務省のトップである麻生大臣の監督責任は免れません。20年前、当時の大蔵大臣は部下である大蔵官僚の接待汚職に関し、監督責任を理由に辞任しました。

いずれにせよ、この局面で安倍首相と麻生大臣の両方を守ることは不可能です。今回の決裁書改ざんは、将棋で言えば「王手飛車取り」を招いた状況です。将棋の世界なら王将を守るため、泣く泣く飛車を捨てざるを得ませんが、安倍政権はどうでしょうか。なりふり構わず延命を図っても、「裸の王様」は早晩行き詰まります。