海外からラブレターが届いたのに返信するどころか抗議する。一般人なら常識に欠ける行為です。今回、日本政府が国連の特別報告者であるジョセフ・カナタチ氏にとった対応は、まさにそのようなものでした。国連の特別報告者とは、国連人権理事会から任命され、担当分野の人権侵害の状況を調査、監視する任務を行います。

先月18日、「プライバシーの権利」を担当する特別報告者のカナタチ氏から、一通の手紙が日本政府に届きました。そこには、「共謀罪」法案について、①「計画」や「準備行為」の定義があいまい、②対象犯罪が幅広く、テロに無関係のものも含まれている、③当局の監視からプライバシーを守る適切な仕組みがない、④法案の成立を急いでいるため十分な議論がされていない、といった懸念が綴られていました。

その上で、「共謀罪」法案について早まった判断をするつもりはないとし、自身の主張が正確かどうか政府に伺いたいとし、求めがあれば法案の改善のために専門的知識と助言を提供することも申し出ています。極めて友好的で建設的な手紙だと思いますが、外務省は「我が国の説明も聞かずに一方的に発出した」として返信せず、「強く抗議」したのです。

加えて、菅官房長官は「特別報告者は独立した個人の資格で調査報告を行う立場であり、国連の立場を反映するものではない」としてカナタチ氏を軽んずる発言を行っています。確かに、カナタチ氏は特定の組織に属さず独立しています。しかし、特別報告者の調査結果は人権理事会に報告され、その見解は同理事会の決議により国連の見解となるのです。

また、昨年日本は、人権理事会の理事を選ぶ選挙に立候補して当選しており、その時の誓約文書には「特別報告者との有意義かつ建設的な対話の実現のため、今後もしっかり協力していく」と明記されています。今回の政府の対応は、これと明らかに矛盾しています。

9日、日本弁護士連合会主催の国際シンポジウムに参加し、テレビ会議でカナタチ氏の考えを聞きました。彼は、「手綱も鞍も鐙(あぶみ)もない馬に友人が乗ろうとしていたので、落馬の危険を知らせる必要があった」と述べ、「仮にこのまま法案が成立したらどうするのか?」という私の問いに対し、「同じことをするだけだ。日本政府に対し、10年かかろうとも理性的、友好的にプライバシーを守るための仕組みを求め続ける」と明言しました。

「『共謀罪』を早く導入し、TOC条約に加盟しないと国際社会に取り残される」と安倍政権は主張しますが、カナタチ氏の人格識見に触れ、その誤りを実感しました。このまま「共謀罪」を導入する方が、国際社会の常識に反し、人権理事国としてあるまじき行為です。