昨年11月から、駆けつけ警護という新たな任務を与えられた自衛隊のPKO部隊がアフリカの南スーダンに派遣されています。この中には、陸上自衛隊の岩手駐屯地の隊員も含まれています。国連職員や他国の軍隊を守るため駆けつけ警護ができるようになったことで、これまで以上に自衛隊が戦闘に巻き込まれる危険が高くなっています。

派遣前、稲田防衛大臣は現地の治安は安定していると国会で答弁していました。しかし、その直前の7月には政府軍と反政府勢力との間で大規模な「戦闘があった」ことが、現地部隊の日報に記載されていました。予算委員会で同僚議員がこの問題を追及したところ、稲田大臣は「法的な意味での戦闘行為はない」とし、「戦闘行為ではなく武力衝突だ」と言い張りました。

なぜ、そこにこだわるのか。憲法9条は、武力の行使などを「国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」と定めています。自衛隊は国際的な武力紛争が生じている地域で活動できません。さらに、法律によって「国際的な武力紛争の一環として行われる人を殺傷し物を破壊する行為」を「戦闘行為」と定義しています。武力紛争なくして戦闘行為なし、ということです。このため、「戦闘行為があった」というと「武力紛争もあった」ことになり、現地の自衛隊のPKO活動が憲法9条違反になってしまうのです。

それゆえに、「戦闘」という記載のある日報は、安倍政権にとって都合が悪く、当初は廃棄されたとして隠ぺいされ、表沙汰になった後も大臣が「衝突」と言い換えてきたのです。ところで、「武力紛争」そのものも本当にないと言えるでしょうか。この点につき、昨秋の臨時国会中、私は質問主意書という方法で政府に答弁を求めていました。

答弁書から、①政府は、「武力紛争」を「国家または国家に準ずる組織の間において生ずる武力を用いた争い」とするが、法律に確たる定義はないこと、②そこにいう「国家に準ずる組織(国準)」にも確たる定義はなく、「国家に準ずるものとして国際紛争の主体たりうるもの」という極めて不明確な意味で政府が用いていること、が明らかになりました。

この見解によれば、大規模な「武力を用いた争い」で自衛隊が危険にさらされようとも、反政府勢力が「国準」に当たらないと言い張れば、「武力紛争」はないことになります。そうなれば、憲法違反の問題は生ぜず、PKO部隊も撤収する必要がありません。政府が守りたいのは、憲法でも自衛隊でもなく、安倍政権だと言わざるを得ません。「PKO」は、「peace keeping operation(平和維持活動)」の略ですが、その実態は「prime minister keeping operation(総理維持活動)」になっています。